16「【収納魔法】は【井戸掘り魔法】」
ある日の午前。
村長っ娘クララ「井戸が欲しいのです」
俺「イド?」
俺(コギト・エルゴ・スム?)
クララ「魔の森の川から、細いながらも支流を引き込んでおりまして。
今までは、支流の先に設けたため池の水で、心細いながらも何とかやりくりできていたのです。
ですが、ここ最近で急激に不足気味に」
俺「今まではやれてたんだろ? 何が原因で? 環境の変化? 干ばつとか?」
クララ「いえ、その……最近になって、大量に飲み食いする方々が増えて」
俺(あー、ガブリエラか! ノーラを筆頭に、他のネコたちもガテン系でよく飲み食いするからなぁ)
俺「俺のせいじゃん」
クララ「いえいえいえいえ! けっして責めるような意図はございません!」
俺「あぁいや、ごめん。気ぃ遣わせちまったよな。
そういうのは、気にせずもっと言ってくれていいんだぜ」
クララ「レジ様は、平和に食料にお金にと、私たちに全てを下さいました。
これ以上、要求するのは申し訳なくて……」
俺「気にするなって。俺自身のスローライフのためなんだから」
クララ「そうでしたね。レジ様ご自身のためでしたよね。
……ふふっ。わざと悪ぶってみせるレジ様、可愛い。お年頃ですね」
俺(中2も過ぎた17歳なんだけど……恥ずかしい)
俺「で、どこに掘ればいいんだ?」
クララ「村の中心――教会の隣の敷地にお願いいたします」
俺「人払いは?」
クララ「済ませております」
俺「準備がいいね。さすがはクララだ。仕事が早い(頭なでなで)」
クララ「えへへへ」
俺(可愛いもんだな。俺に年の離れた妹がいたら、こんな感じだったのかな?)
クララ、メイド、ガブリエラ、ネコたちと一緒に村の中心に向かうと、教会の隣、四方数十メートルが片付けられており、ついたてが立てられていた。
俺(俺の【収納星】を隠すための目隠しだな。
俺は村人たちに対して、【収納聖】だと言い張っている。
【収納聖】には掘り終えた後の土を【収納】する能力はあっても、カチカチの地面を掘削するほどの力はない。
けれど俺は、クララの母親の前で『生きている人間』を『生きたまま』【収納】してみせて、さらには『毒』だけ残して『生きたまま』外に出すことができた。
これは、【収納王】や【収納帝】レベルの絶技だ。
【収納聖】は生き物を【収納】できないし、【目録】も使えないし、分離なんてできるわけもない。
俺はクララに『限りなく【収納伯】に近い【収納聖】だ』と言い張っているけど、クララは察しているんだろう)
クララ「では、ここを掘っていただけますか?」
俺「おっけ。【収納】!」
――シュンッ!(直系1メートル、深さ5メートルの円すい状の穴が生じる音)
俺「もいっちょ5メートル分を【収納】!」
クララ「わ、わわわ……なんてこと」
俺「え、何に驚いた?」
クララ「そ、その……(目が泳いでる)。
この地域の地盤って、8メートルあたりから異常に固くなるんです」
俺「え、どういうこと? 【収納】」
――シュンッ(5メートルの円すい2本が現れる音)
俺「なんか、深い部分がキラキラしてるな。これってまさか……【鑑定】!」
『オリハルコンが含まれた岩盤』
俺「オリハルコン!?」
クララ「あぁぁ……やっぱり」
俺「えーと、クララ?」
クララ「この異常な硬さがあったからこそ、この村では過去に井戸掘りに一度も成功したことがなくて。
過去に採取して鑑定したら、『オリハルコンかも』と。
私が生まれるずっとずっと前の話ですが。
代々の村長と一部の人間しか知らない、極秘情報です。他言無用でお願いしますね」
クララが岩盤に触れる。
クララ「ここの部分、大きめのオリハルコン原石が真っ二つになっています(へなへなと座り込む)。
オリハルコンの切断なんて、【収納聖】にできるはずがありません。
【剣】や、最も斬撃性能の強い【風】魔法ですら、【王】級スキルがなければ成し得ないはずの絶技です」
俺「ガブリエラ!」
ガブリエラ「は、はいですにゃ!」
俺「バーサーカーモードのお前は、オリハルコンも斬れるって設定にしろ!」
ガブリエラ「無理がありません!?」
俺「えーと。クララ、これはどういうこと? 俺を試したのか?」
――ばばっ(クララが土下座する音)
クララ「申し訳ございませんでした!」
俺「…………。どうしてこんな真似を?」
クララ「騙し討ちするような意図はなかったんです!
でも、どうしても知りたくて……ガブリエラさんたちが知らされているのに、私だけ知らされていないというのが、その」
俺(おや? もしかして、嫉妬的な?
まぁ、7歳児だもんなぁ。そう考えれば、可愛いもんか。
メイドに対して嫉妬していないのは、俺とメイドの付き合いの長さを考慮したってことか。
幼い部分はありつつも、やっぱり7歳児とは思えない思慮深さだなぁ。
立派なもんだ。俺が7歳のころなんて、なーんも考えてなかったし。
なのにコイツは、この若さで村長という重責を……うう、なんか不憫になってきた。
よし、クララを『チーム【収納星】』に入れるか!)
俺「メイド?」
メイド「それがレジ坊ちゃまのご意思なら」
俺「よし。じゃあクララ、今日からお前は『チーム【収納星】』の一員な」
クララ「【
俺「いんや。【
クララ「【星】級ぅぅううううううううううううう!? ――もがっ(俺に口を塞がれる)」
俺「しーっ!」
クララ「ご、ごごごごめんなさい!」
俺「ともかく、そういうわけだから。くれぐれも秘密にな」
クララ「は、ははーっ(深々とお辞儀)」
俺「やめろよ。そういうの、ガラじゃないから」
クララ「で、ですが、閣下は、いえ、陛下? 聖上?
俺「……だって。急に距離取られると、寂しいだろ」
クララ「! 分かりました!(笑顔)
あの、ところで……」
俺「うん?」
クララ「秘密厳守は徹底させます。が、村の者たちも、薄々は感づいていると思いますよ」
俺「え、そうなの!?」
クララ「私の母のことは、『レジ様がたまたま貴重な解毒薬を持っていた』ということにしておりますし、壁を修復したことは、『レジ様がたまたまぴったりの木造壁を持っていた』ということにしております。
が、『そんなたまたま、ある?』と疑問視している者がいるのも事実なのです」
俺「あー。さすがに無理があるかー……」
クララ「ですが、ご安心ください!
命や生活の恩人の秘密を暴こうとするような不届き者はこの村にはおりませんし、いたら私がボコボコにしますので!(腕まくり)」
俺「ふふっ。頼りにしてるぜ村長様!
【収納】」
――シュンッ(2本の円すいが消える音)
俺「改めて、井戸掘りだ。
繰り返すけど、ガブリエラがオリハルコンを断ち切れるって設定でいくからな」
ガブリエラ「『バーサーカー状態のときは、限りなく【収納王】に近い【収納伯】』というわけですか。ご主人様は屁理屈の天才ですね」
俺「照れるぜ」
ガブリエラ「褒めてませんにゃ」
俺「では――【収納】、【収納】!
って、20メートル掘っても水が出てこない。
仕切り直すわ。広めに掘るけどいいか?」
クララ「もちろんです」
俺「では、直径3メートルほどに――【収納】!」
――シュンッ!(直径3メートル、深さ30メートルの穴が出現する音)
ガブリエラ「改めて、ご主人様はバケモノですね」
俺「誰か【浮遊】魔法使えるヤツ、いる?」
【風聖】のネコ「あちしが使えます」
俺「じゃ、俺を浮かせて、穴の中に入れて。
俺が10メートルずつ掘っていくから、ゆっくり俺の体を下ろしていってくれ」
メイド「お待ちください! 単身で降りていくのは、さすがに危険です。
メイドも一緒に降ります」
俺「おおげさな。ただの穴掘りだぜ?」
メイド「地中に魔物が潜んでいるかもしれませんし、地中には毒がありますし」
俺「毒?」
メイド「閉鎖空間などにも毒があります。
ごくごく薄いものですが、大気中にはどこにでも毒がありまして、閉鎖空間や深い深い穴の底では、その毒が凝縮されるのです。
毒を吸うと、頭が朦朧としてきて、やがて気絶し、最悪、死に至ります」
俺(酸欠のことかな?)
俺「じゃあ、ついて来る?」
メイド「はい」
◆ ◇ ◆ ◇
俺(なんか、二人羽織みたいになったな)
俺とメイドにそれぞれ命綱を結んだ状態で、メイドが俺を背後からぎゅっと抱きしめる形に。
俺「じゃあ、頼む」
【風聖】のネコ「はいですにゃ。【浮遊】!」
ふわふわふわふわ。
俺たちの体が穴の底へとゆっくり降りていく。
俺たちが着地する寸前に、
俺「【収納】!」
――シュンッ!(さらに10メートル分が掘られる音)
ふわふわ
俺「【収納】!」
ふわふわ
俺「【収納】!
埒が明かない。一気に50メートルずついくぞ。【収納】!」
――ぎゅっ
俺「んお。どうしたメイド? 怖いなら上で待っていても」
メイド「違います」
俺「なら何」
メイド「別に。最近急に、レジ坊ちゃまの周りに女の影が増えて、寂しいだなんて思っていません」
俺「つまり思っているのか。【収納】!
なんか暑いな。それに、メイドが言っていたとおり、空気が薄い気がする。
周囲の熱を【収納】しつつ、上空から空気を【収納】し、ここに出す」
メイド「おおっ。不快感が消えました。
レジ坊ちゃま、最近ますます人間離れしつつありますね」
俺「かもな。【収納】!」
メイド「お疲れではありませんか?」
俺「大丈夫大丈夫。
こうなったら、何か出てくるまで続けるぞ!
【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】……」
◆ ◇ ◆ ◇
俺「【収納】……はぁはぁ、【収納】」
メイド「レジ坊ちゃま、さすがにもう、今日は諦めましょう」
俺「だああああっ、悔しい!
ラスト、一気に100メートル【収納】!」
――ピシッ
俺「ピシッ?」
穴の底にひびが入る。
――ピシピシピシッ
――ドッパァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!(とんでもねー量の水が吹き出す音)
俺とメイド「「うわぁぁあああああああああああああああああああああああッ!?!?」」
気がつけば、地表に戻っていた。
メイドにしっかりと抱きとめられている。
俺「水……? いや、温かい。それに、この匂い!」
メイド「これってもしかして」
俺「温泉だぁぁぁあああああああああああああああああああああああッ!」