14「ガブリエラのバッドスキル【暴食】」
バーサーカーモード・ガブリエラ「肉ゥゥゥウウ! 肉ヲ喰ワセロォォォオオオオッ!」
ノーラ「あー……やっぱりこうにゃりやしたかにゃ」
俺「やっぱりって何!? こうなる可能性があったんなら、事前に共有しといてよ!」
ノーラ「いやぁ、すいやせんですにゃ。昨日はあれだけ食ってたから、さすがに大丈夫だろうと思っちまいましてにゃ。
それに、昨晩は俺ら酒も入ってたもんで」
俺「あーもう!
クララ、人払いして!」
クララ「かしこまりました!
村人のみなさんは、教会に退避してください!
この場は【聖剣】様が何とかしてくださいます!」
俺「メイド! 1分でいいから芝居して!」
メイド「えっ、メイドがでございますか!?」
ガブリエラ「肉ゥゥウウウウウウウウウウウッ!」
メイド「ひ、ひえっ(抜剣)」
――ギンギギンギンギギギギギギギギッギイギンンンッ!(メイドとガブリエラの攻防)
俺(なんつー剣戟! これなら教会のほうにも音が聴こえるだろ)
俺「よくやったメイド! 【収納】!」
――シュンッ!(ガブリエラが【収納】される音)
俺「【目録】」
俺(『ガブリエラ』を長押ししてっと。
……ん、これは? まぁいいや。今は細分化した『ガブリエラ』から『バーサーカー状態』を分離っと。
あれ、『バーサーカー状態』が2個になった。昨日分離させたヤツが入りっぱなしだったのか。そういえば『毒』も入ったままだし。
こういうバステって、魔物とかに付与できたりするのかな?)
俺「【収納】」
――シュンッ!(正気に戻ったガブリエラが現れる音)
俺「おらっ、コレでも食ってろ(ガブリエラの口にオークの串焼きを突っ込む)」
ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ」
俺(実は俺、とんでもなく面倒くさいもんを拾ってしまったのでは……?)
◆ ◇ ◆ ◇
昼。
バーサーカーモード・ガブリエラ「肉ゥゥゥウウ!」
俺「またかよ! 【収納】!」
◆ ◇ ◆ ◇
ガブリエラ「申し訳にゃい……」
俺「いいけど。
つまり、お腹が空くとバーサーカー状態になってしまうってことなんだろ?
原因に、何か心当たりはないのか?」
ガブリエラ「実は……(胸の谷間から何か取り出す)」
俺(この世界の住人は、みんな胸の谷間に物を収納しているのか……?)
俺「それは、冒険者証?」
ガブリエラ「はい(差し出してくる)」
俺「え、見ていいの?」
ガブリエラ「はい」
俺(どれどれ。スキルや依頼達成率、犯罪歴などなど。
『飲食代未払』……コイツマジで無銭飲食で奴隷落ちしたのか。
スキルは【剣伯】に【収納伯】に――――……【暴食】?)
俺「【暴食】って、コレ、どういうスキルなんだ?」
ガブリエラ「常人よりも異常にお腹が空くんです。
そして、空腹状態が続くと正気を失います」
俺(そんでバーサーカー状態に。
スキルっていうよりバステみたいなもんか)
メイド「いわゆる『呪い』というやつでございますね」
俺「呪い! そういうのもあるのか。
でも『スキル』というからには、プラスの効果もあるのでは?」
ガブリエラ「言い伝えでは、苦労させられる分、スキルレベルが高くにゃると言われています」
俺「ナルホド。ガブリエラは【伯】級のダブルホルダーとかいうとんでもねー超スキル持ちだから、言い伝えは正しいっぽいな」
ガブリエラ「【星】とかいうとんでもねー超スキル持ちがにゃにかおっしゃってますね」
俺「(きょろきょろ)メイドとガブリエラとネコたちしかいないな。
なぁガブリエラ、俺はお前が言うようなとんでもねー超スキル持ちだから、お前の『バーサーカー状態』を【収納】することができる。
猛毒にかかって死にかけてる人から『毒』だけを切り離すこともできた。
もしかすると、お前の【暴食】スキルも分離することができるかもしれないんだ」
俺(というか、十中八九できる。だってさっき、【収納】の中で『ガブリエラ』を長押しした時、『バーサーカー状態』と一緒に【暴食】が見えたから)
ノーラ「あ、姐御……俺は反対ですにゃ。
【暴食】がスキルに好影響を与えているということは、【暴食】を失ったら、姐御は【剣伯】じゃにゃくにゃるかもしれにゃいってことじゃにゃいですかにゃ。
姐御は剣の腕に誇りを持っていたじゃにゃいですか!
もしまた暴走しても、俺等が止めてみせますにゃ!
今までだってそうだったじゃにゃいですかにゃ!」
ネコたち「「「「「そうですにゃ!」」」」」
ガブリエラ「でも……(ぽろぽろと涙をこぼす)。
ウチはこのスキルのせいで村を追われて。にゃのにお前たちはウチについて来てくれて。
にゃのに、そんなお前たちまでウチのせいで奴隷にさせてしまって……。
ウチは毎日毎日、怖かった。ひやひやしてた。
正気を取り戻すたび、お前たちが――大切な誰かがいにゃくにゃってはいにゃいかと……ウチが喰い殺してしまってはいにゃいかと、いつもいつも気が気でにゃかった。
そりゃ剣の腕は自慢だけど、お前たちを怪我させたり、失ってまで維持し続けるほどの価値にゃんてにゃい。
知らにゃい間に、お前たちを喰い殺しているかもしれにゃい……そんな怖い思いは、もうしたくにゃい。この恐怖から解放されるのにゃら――」
俺「分かった。俺に身を委ねてくれるか?」
ガブリエラ「はい!」
俺「【収納】!」
――シュンッ!(ガブリエラの姿が消える音)
俺「【目録】」
俺はウィンドウを日時でソートして、一番上に来た『ガブリエラ』を長押しする。
すると、『ガブリエラ』が『ガブリエラ』と『【暴食】』に分離した。
俺「『ガブリエラ』よ、【暴食】を残したまま出てこい! 【収納】!」
――シュンッ!(ガブリエラが現れた音)
俺「これでお前は、自由だ。もう、【暴食】に悩まされることはない」
ガブリエラ「ウチ……ウチ……うわああああん、みんなーーーー!」
ノーラとネコたち「「「「「姐御――――っ!(ガブリエラと抱き締め合う)」」」」」
メイド「一件落着でございますね」
俺「この【暴食】、どうしよう?
メイド、いる? 【剣伯】になれるかもよ」
メイド「わたくしがレジ坊ちゃまを食べてしまっても良いのであれば、どうぞ付与してくださいませ」
俺「……やめとくよ」
メイド「賢明なご判断かと。それにメイド、【剣伯】へは自力で到達するつもりでございますれば」
俺「頼もしいねぇ」
――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……(ガブリエラの腹の虫の音)
ガブリエラ「ご、ご主人様……お腹が空きました」
俺「腹ペコキャラなのは変わらねーのかよ!」
ちゃんとオチまで用意してくれる、ガブリエラなのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
数日、穏やかな日々が続いた。
メイド&ネコたちと魔の森に入って、オリハルコン・ドラゴンの残党狩りをしたり、
クララの仕事を手伝ったり、
メイドが『鍛え直します』って言ってガブリエラに稽古をつけてもらったり(【暴食】がないとガブリエラは剣の腕を若干落とすが、それでもメイドより強い。【剣伯】寸前の【剣聖】レベルだ)。
オリハルコン・ドラゴンの死体はすでに数十体に及んでいて、俺の【収納】の肥やしになっている。
まぁ、まっとうな商人に売った場合、向こう10年は村の財政は安泰だった。
貴重なオリハルコン・ドラゴンを普通のドラゴンと同じ価格で買い叩いた、例の悪徳商人に買い叩かれでもしない限り。
そうして4日目の午前中。
『魔の森』にて。
メイド「【気配察知】――いました。900メートル前方にオリハルコン・ドラゴン1」
ガブリエラ「了解! ご主人様、お願いします」
俺「了解。【収納】――ガブリエラに【暴食】を付与!」
俺(この数日で、【暴食】スキルを付けたり外したりするのにも慣れたな。
でもこれって、もしかしたら【暴食】以外のスキルも奪ったりできるのかも……。
いやいやいや、それってほとんど神の御業じゃん。
あ、俺、【神】超えの【星】だったわ。怖ぁ……)
ガブリエラ「行ってきます」
――バヒュンッ!(【剣伯】に戻ったガブリエラが残像とともに走り去る音)
――パンッ!(【剣伯】ガブリエラによる音速超過の剣が放つ、ソニックブームの音)
俺(ホント、戦闘機じゃないんだから。気軽に音速とか超えないでほしい)
ガブリエラ「ご主人様~ 」
俺たちが到着した時、ガブリエラはオリハルコン・ドラゴンの生首をつかんでぴょんぴょんしていた。
俺(うーんっ。バイオレンス可愛い! 最高っ)
◆ ◇ ◆ ◇
クララ「お帰りなさいませ、レジ様と皆様!」
――がやがやがやがや
村の中心が騒がしい。
俺「どしたの?」
クララ「行商人さんです。みんな、生活用品の購入のために、教会に集まっているんです」
俺「あぁ……例の、オリハルコン・ドラゴンをどちゃくそ買い叩いてくれやがった悪徳商人か」
クララ「ご、ご本人には言わないでくださいよ!?」
俺「当たり前だ」
俺(7歳児にたしなめられるとは。いや、俺も見た目は7歳児なのか)
クララ「村の外壁にするための、石材を買おうと思っているんです」
俺「別に、その行商人から買わなくてもいいんじゃないか?
オリハルコン・ドラゴンも、ソリッドステート領都の冒険者ギルドなら適正価格で買い取ってくれるぞ。ガブリエラにおんぶさせれば日帰りだ」
ガブリエラ「にゃっ!?」
クララ「うーん……でもあの行商人さんは、昔からここに来てくれている唯一の商人さんでして。
こんな、危険ばかりで、人口も少なく特産品もないところに」
俺(美談……なのか? 他の行商人が来ないような寒村にまで、商品を運んでくれる善意の行商人的な?
でもそれなら、オリハルコン・ドラゴンをクソみたいな価格で買い叩いたりするか?
どうにも違和感が拭えない。某・頭脳は大人な名探偵じゃないけど、『妙だな……』って感じなんだよね)
俺「まぁ、とにかく会ってみるか。領主名代としては、挨拶は避けては通れないわけだし」
◆ ◇ ◆ ◇
俺「(にこにこ)こんにちは! アナタがおウワサの行商人様ですか! わたくし、先日この村の領主名代になりました――」
行商人「あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
俺「!?」
ガブリエラとネコたち「「「「「にゃーーーーーーーーっ!? 旧ご主人様!?」」」」」
行商人「お、お前ら、どうしてこんなところに!?
なぜ勝手に持ち場を離れた!? 採掘を続けるように、と厳命していたはずだ。
って、隷属の首輪が消えてる!? なぜ!?」
俺(あ~~~~~~~~~~~~っ! 鉱山泥棒疑惑の奴隷商と同一人物だったのか!
点と点がつながったわ。こりゃ、面白いことになってきたぞ)