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13「【収納魔法】は【建築魔法】」

俺(10人のネコ耳美少女たちが全裸で箱座りしているという光景……意味不明だけど、ある種、男の夢のような光景だな。
 とはいえ、そろそろメイドの視線も痛くなってきた頃だし。
 ガブリエラを全裸のままでいさせたのは無力化するためであって、俺に【隷属】していると分かった今はもう、無力化する意味もないものなぁ)

俺「じゃ、服を返すね。【収納】!」

 ――シュンッ!(ガブリエラとノーラとネコ耳少女たちの手元に服と装備が戻る音)

ガブリエラ「遠距離【収納】持ちは珍しくにゃいとはいえ、10人分の荷物を仕分けたうえで各自の手元に出すにゃんて、にゃんと器用な……
 新ご主人様のスキルは【収納伯】にゃのですか?」

俺「いや、【収納星(ストレージ・スター)】」

ガブリエラ「【収納聖(ストレージ・スター)】?」

俺「【聖】――『すごい人(スター)』のほうじゃなくて、【星】のほう。
 無印、【上級】、【聖】、【伯】、【王】、【帝】、【天】、【神】の、さらに上の【星】だよ」

ネコたち「「「「「【神】超え!?」」」」」

俺「絶対に、他言無用な。い・い・な?」

ネコたち「「「「「(こくこくこくこく)」」」」」

俺「それで、お前らはここで何をしてるんだ?」

ガブリエラ「採掘です。オリハルコンの」

俺「ソリッドステート辺境伯の許可のもとで?」

ガブリエラ「ええと、それは知りません。
 ウチらは旧ご主人様の命令に従ってただけですから」

俺「ナルホド。――メイド?」

メイド「はい。旦那様に照会をかけますね」

 ――ずぼっ(メイドが胸の谷間からマジックバッグを取り出す音)
 メイドがマジックバッグからペンと紙と機械仕掛けの伝書鳩を取り出し、サラサラと手紙を書いて伝書鳩の脚に結びつける。
 ネジを巻かれた伝書鳩が、飛び立っていく。

俺(俺はその『旧ご主人様』とやらからガブリエラたちを盗んだ『奴隷泥棒』になるわけだけど……
『旧ご主人様』が無断で鉱山採掘をやっていた『鉱山泥棒』なら、奴隷泥棒の件はうやむやにできそうだな)

 ――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……(ガブリエラの腹の虫の音)

ガブリエラ「お腹空いた……」

俺「え、何、お前、腹にケモノでも飼ってるの!?」

ノーラ「新ご主人、早く姐御に何か与えるにゃ!
 腹が減っちまったら、姐御はバーサーカー状態になっちまうにゃ」

俺「何!?」
俺(さっきのあれは、やっぱりそういうことだったのか!)

俺「【収納】!」

 ――ずぼっ(俺が虚空からオークの串焼きを取り出す音)
 ――ずぼっ(俺がガブリエラの口にオークの串焼きを突っ込む音)

俺「とりあえず、コレ食っとけ!」

ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ」

 ――ぐぅ~~~~……(ノーラとネコ耳少女たちの腹の虫の音)

俺「え、何。お前らも?」

ノーラ「旧ご主人はなかなかここに来ないヤツで、食料をほとんど置いていってくれないのにゃ。
 俺たち、もう丸1日何も食べてないにゃ」

俺「え、虐待じゃん。
【収納】。とりあえずコレ食っといて。
 じゃ、行くぞ」

ノーラ「もぐもぐ。どこへ行くにゃ?」

俺「俺らの村だよ」




   ◆   ◇   ◆   ◇




村長っ娘クララ「あのぅ、その方々は?」

俺「拾った。剣や槍、弓、斧の腕が立つ連中だ。
 最低でも【上級】。【聖】もちらほら。
 あとコイツ、ガブリエラ・オブ・バルルワはなんと【剣伯】だ。
 ほらお前ら、挨拶」

ガブリエラ「よろしくお願いします、村長」

ノーラとネコたち「「「「「よろしくなのにゃ!」」」」」

クララ「け、【剣伯】様!? な、ななな……」

俺「悪いけど、コイツらに思う存分食わせてやってくれないか?
 これは、その分の代金。【収納】」

 ――シュンッ!(4体のオリハルコン・ドラゴンが現れる音)

クララ「オリハルコン・ドラゴンんんんん!?
 そ、それにしても、この首の見事な断面は……」

俺「ガブリエラは【剣伯】だからな」

ガブリエラ「え? ウチが狩ったのは1体だけで……」

俺「ガブリエラは【剣伯】だ・か・ら・な!」

ガブリエラ「はい! 全部ウチが狩りました!」

ガブリエラ「え、新ご主人様ってオリハルコン・ドラゴンを瞬殺できるんですか?(ひそひそ)
 この3体分の死体、首以外に傷が一つもにゃいんですけど……(ひそひそ)」

俺「【収納星】は世界中の魔剣・聖剣にも優る最強の剣らしい(ひそひそ)」

ガブリエラ「ひえっ……新ご主人様の奴隷ににゃれて、ウチは幸せです(ひそひそ)」

クララ「オリハルコン・ドラゴンが4体も!
 これだけあれば、村人が10人増えるくらい、余裕でやりくりできますよ!
 今夜も肉パーティーです!」

ネコたち「「「「「うおおおおおお!」」」」」

俺「じゃ、ノーラと残りのネコたちは、村長クララの手伝いをしていろ。
 ちゃんとクララの言う事聞くんだぞ」

ネコたち「「「「「イエス・マイ・ロード!」」」」」

クララ「閣下(ロード)……? まぁレジ様は辺境伯閣下の御子息なのでおかしくはありませんか」

俺「あ、あはは……ネコたちをよろしくな、クララ」

クララ「っっ、はい!(笑顔)
 ほらネコさんたち、肉パーティーの準備ですよ!」

俺「衣食は良いとして、問題は住か。
 お前らの中に【収納伯】っていたりする?」

ガブリエラ「ウチが【収納伯】です」

俺「マジか。【剣】のみならず【収納】までも。ちょうどいい」

ガブリエラ「え? ちょうどいい?」

俺「じゃあガブリエラ、お前今日から『限りなく【王級】に近い【伯級】』な」

ガブリエラ「…………はい?」




   ◆   ◇   ◆   ◇




 半日後、領都ソリッドステートの片隅。

不動産屋「この家でございます」

俺「だそうだ、ガブリエラ」

ガブリエラ「は、はぁ。にゃんにゃんですか、この家?」

俺「取り壊し予定の家。
 メイドが鉱山のことについて父上に照会の手紙を飛ばした時に、同時に不動産の手配も付けておいてくれてな」

ガブリエラ「どういうことですか?」

俺「俺たちは無料で家が手に入る。
 不動産屋は、取り壊し予定の家を無料できれいサッパリ撤去できる。
 Win-Winな取引だ」

ガブリエラ「ういうい……?
 それで、どうするのですか? 家財道具は収納できても、建屋自体は――むぐっ(俺に口を塞がれる)」

俺「お前が【収納】するんだよ。お前の、限りなく【王】級に近い【収納伯】で。
 俺とタイミングを合わせて、【収納】するフリをしろ(ひそひそ)」

ガブリエラ「にゃ、にゃるほど!(ひそひそ)
 ウチには家ごと【収納】にゃんてできませんが、ご主人様にゃらできますもんね(ひそひそ)」

俺「じゃあガブリエラ、頼む」

ガブリエラ「はい!」

俺とガブリエラ「「【収納】!」」

 眼の前にあった空き家が、基礎ごとごっそり消え失せた。

不動産屋「ほほーっ。さすがはソリッドステート家の御子息。
 良い部下をお持ちですな!」

ガブリエラ「やったの、ご主人様ですけどね……(ひそひそ)」




   ◆   ◇   ◆   ◇




 そんな感じで残り数軒の家を【収納】して、エンデ村に戻ってきた。
 時刻はもう夜だ。
 何しろ領都とエンデ村の間は馬車で1日の距離。

俺「いやぁガブリエラ、お前、足も速いのな!」

ガブリエラ「ぜーっ、ぜーっ。お褒めにっ、あずかりっ、光栄っ、ですっ、が!」

 それだけの距離を、獣人ガブリエラは俺をおんぶして数時間で駆け抜けてしまったのだ。

 ――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……(ガブリエラの腹の虫の音)

俺「肉を! 肉を所望します!」

メイド「お帰りなさいませ、レジ坊ちゃま。首尾はいかがでしたでしょうか?」

俺「おう。メイドの手配のお陰で、良さげな家を5軒もゲットできたぞ」

メイド「それは良うございました」

クララ「レジ様、お帰りなさいませ!」

ノーラとネコたち「「「「「姐御と新ご主人様、お帰りなさいなのにゃ!」」」」」

クララ「お肉がたくさん焼けてますよ!」

ガブリエラ「肉ゥーー! ぐえっ!?(俺に襟首をつかまれる)」

俺「お前はもうちょっとだけ仕事だ。
 クララ、場所は手配しておいてくれたか?」

クララ「はい。用意しておりますが……
 本当に、そんなことが可能なのですか?」

俺「くれぐれも他言無用にな」

クララ「(こくこくこくこく!)」

 案内されたのは、村の端。

俺「メイド、村人たちは見てないな?」

メイド「みな、肉に夢中でございます」

ガブリエラ「肉……肉ゥ……」

俺(やべ。コイツまたバーサーカー化しかけてないか?)
俺「よし。ではこれより、【王】級に限りなく近い【収納伯】のガブリエラが、この場所に家を建てるぞ」

クララ「ガブリエラさんが、ですか?」

俺「ガブリエラが」

クララ「そ、そうですよねっ。レジ様は【収納聖】であり、【収納聖】スキルでは家ほどの巨大なものは出し入れできませんからっ」

俺「そのとおり。
 ではガブリエラ、俺とタイミングを合わせて――【収納】!」

ガブリエラ「【収納】!」

 ――シュンッ!(一瞬で、石造りの家が建つ音)

クララとガブリエラ「「お、おおおおお!」」

俺「ってガブリエラ、お前が驚くことないだろ」

ガブリエラ「そ、そうでしたね肉」

俺(やべぇ、語尾が肉になってる。さっさと終わらせよう)
俺「では残りの家も――【収納】、【収納】、【収納】、【収納】!」

クララ「なっ、なっ、なっ……一瞬で、立派な石造りの家が5軒も建っちゃいました」

俺「うち1つを俺とメイドに家にする。
 残りはガブリエラがノーラたちに分配しろ」

ガブリエラ「了解です肉!」

ノーラとネコたち「おーい姐御、肉持ってきたですにゃ!
 って、にゃにゃにゃっ!? 家がいっぱい建ってる!?」

ガブリエラ「肉ゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ!(ノーラに飛びかかる)」




   ◆   ◇   ◆   ◇




 ――わいわい、がやがや
 肉パーティー会場にて。

ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ」

俺「んで、お前らってどういうアレなの?」

ノーラ「へい。俺たちは隣国のバルルワっていう小さな村の出でして。
 俺らはみんな腕っぷしには自信があったんですが、にゃにしろ女の身の上じゃ雇ってくれるようなお貴族様もいなくてにゃ」

俺(男尊女卑を地で行く、中世ヨーロッパ風倫理観の世界だからなぁここ)

ノーラ「けど、女でも腕さえ立てば活躍できる仕事があるにゃ。それが――」

俺「ナルホド、冒険者」

ノーラ「そうですにゃ。俺ら10人でパーティー『キャッツアイ』を結成し」

俺「ちょっと待ってそれはおかしい」

ノーラ「にゃ?」

俺「ごめん、こっちの話」




   ◆   ◇   ◆   ◇




『ガブリエラの舎弟筆頭』
【弓聖】ノーラ。
 ガブリエラを『姐御』と呼ぶ9匹のネコたちのまとめ役。
 ネコ耳ネコ尻尾。
 右耳の先っぽが少し欠けている。
 頬に傷があり、いかつい顔立ちをしている。
 目は鋭く三白眼。
 黒い髪は、この世界観の女性にしては珍しいほど短い。
 筋肉ムキムキ細マッチョ。




   ◆   ◇   ◆   ◇




ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ」

ノーラ「んでまぁ、にゃにしろうちの姐御は【剣伯】だから、ドラゴンみたいなSランクの魔物にゃんかをガンガン狩って(にゃ)を上げていったってわけですにゃ。
 けど……」

俺「けど?」

ノーラ「カネは、全部食費に消えちまったにゃ」

俺「え」

ノーラ「姐御の」

ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ」

俺「怖っ。
 ってことは、お前らが奴隷になった原因って、借金?」

ノーラ「違うにゃ」

俺「え、じゃあガブリエラがさっきみたいに暴れて人殺したとか……?」

ノーラ「そんにゃことしてにゃいにゃ。ただちょっと、軽犯罪を……」

俺「どんな?」

ノーラ「その、食い逃げ……というか逃げるつもりはにゃかったんだけど、支払いきれにゃくて」

俺「いくら?」

ノーラ「……………………金貨1,000枚」

俺「いちおくえん!?」

ガブリエラ「うみゃうみゃうみゃうみゃ」

ノーラ「まぁ、結果として新ご主人様に拾われて良かったにゃ。
 旧ご主人様はほとんど肉くれねぇし、姐御は飢えたら豹変して襲いかかってくるから超怖いし……。
 でも、新ご主人様にゃら姐御を飢えさせるようにゃことはにゃさそうだし。
 家までくれて。昨日までは鉱山の中でゴロ寝していて、時々耳をネズミにかじられてつらかったにゃ」

俺「ドラえもんかな。
 まぁ、俺の言う事聞いてる間は、たっぷり食わせてやるよ」

俺(さすがのガブリエラも、アレだけ食ってれば当面大人しくしてるだろ。
 って、どれだけ食ってるんだ? オーク丸々3体分くらいは食ってないか?
 え、コイツの体どうなってんの!? 四次元胃袋!?)




   ◆   ◇   ◆   ◇




 ――カンカンカンカンッ!

 翌日、俺とメイドは警鐘で叩き起こされた。

俺「何事!?(飛び出す)」

クララ「村長、大変です! ガブリエラさんが――」

ガブリエラ「肉、肉、肉ヲ喰ワセロォォオオオオオオオオッ!」

俺「えええええええっ!? 暴走してる!?」

しおり