12「10匹のネコを飼うことになってしまった」
ガブリエラ「あの……その、そろそろ服を着させていただけませんか」
俺「やだよ、怖いし」
メイド「そのとおりです。こちらは殺されかけたんですから」
俺たちを殺しかけた獣人美少女が、俺たちの前を歩く。
彼女は今、全裸状態を継続中。
服による足かせは外したが、手かせはそのままだ。
そして、その手かせにロープを結び、そのロープをメイドがつかんでいる。
ガブリエラ「ううっ……その点についてはお詫びの申し上げようもにゃく。
でもでもっ、うら若き乙女を全裸で歩かせるというのはさすがにひどくありません!?」
俺「それは、人の喉にいきなり食らいつこうとしたことと、どちらのほうが罪が重いんだろうな?」
ガブリエラ「う、うぐっ……。
あとあと、さっきから人のお尻をジロジロ見すぎだと思うんです!
いくら子供でも、やって良いことと悪いことがありますよね!?」
メイド「それは、人の腕をいきなり斬り飛ばすのと、どちらのほうが罪が重いことなのでしょうか?」
俺「それに俺は、お前の尻を見ているんじゃない。尻尾を見ているんだ」
――ぶわわっ(獣人美少女のしっぽがぶわわってなる音)
◆ ◇ ◆ ◇
『獣人美少女』
【剣伯】ガブリエラ・オブ・バルルワ。
獣人の村『バルルワ』で最も剣の腕に優れた【剣伯】。
ネコ耳にネコの尻尾。
12歳。美少女。めっちゃ美少女。
茶色い髪は膝にまで届くほど長く、まるで手入れをしていないのか、ゴワゴワでくるっくる。
金色の瞳はまさにネコって感じで、瞳孔が細長い。
得物は、片手剣。
【剣伯】の名のとおり、【剣聖】ブルンヒルド・オブ・ソリッドステートをすら凌ぐ実力を持つ。
◆ ◇ ◆ ◇
俺「それで、お前の仲間がいる場所ってのはまだ遠いのか?」
ガブリエラ「いえ、もうすぐ見えてきます」
俺「ここは……鉱山?」
メイド「オリハルコン鉱山。ソリッドステート領の西端ですね」
俺「えっ、オリハルコンの鉱山なんてあったの!?
父上なら開発してそうなもんだけど」
メイド「オリハルコン・ドラゴンが巣穴にしていますから」
俺「ナルホド。危険すぎて掘れない、と。
でも、このネコ娘――ガブリエラならオリハルコン・ドラゴンは脅威にならない、と」
???「あーーーーーーーーっ!?
てめーら、
見れば、鉱山からワイルド風なネコ耳少女が出てきたところだった。
俺「えーと、キミは誰かな?」
???「俺様は姐御の舎弟筆頭・ノーラだにゃ!」
俺(うおっ。今度は俺様少女が登場か)
ノーラ「それよりてめー、姐御を開放しやがれにゃ!
全裸にして縛り上げるだなんて、奴隷相手にしたってやって良いことと悪いことがあるにゃ」
俺「いや、だって。この子がいきなり襲いかかってきたからさ。
俺もそこのメイドも、危うく殺されるところだったんだよ?」
俺(手にはツルハシ。服は粗末。首には鉄製の首輪……。
『奴隷相手に』ってことは、ガブリエラやあの舎弟少女は奴隷身分なのか?
鉱山奴隷ってこと?)
ネコ耳少女「にゃんだにゃんだ?」
ネコ耳少女「ノーラ、何かあったのかにゃ?」
ネコ耳少女「にゃっ!? ガブリエラの姐御が捕まってるにゃ!?」
ノーラ「つべこべ言わずに、姐御を離せにゃ――ッ!」
ノーラがツルハシを振り上げる。
メイドが抜剣した。が、左手はガブリエラを縛ったロープを持ったままなので、自由には動けない。
ノーラがツルハシを投げた!
メイドがツルハシを剣で弾く。
ノーラとネコ耳少女たち「「「「「フシャーーーーーッ!」」」」」
その頃にはもう、ノーラとネコ耳少女たちが四方八方から俺たちに飛びかかっていた。
俺(速い! 頭に血が登っているように見えて、しっかりと連携が取れている。
片腕のメイドじゃ厳しいか?
俺が代わりにガブリエラを拘束する? いや、俺の腕力じゃ抑えきれない。
っていうかもう間に合わない!
どうしよう、メイドに加勢するか? いや、どうやって!?
あぁもうなんにも間に合わない!
かくなるうえは――)
俺「【収納】!」
――シュシュシュシュシュシュンッ!(ノーラとネコ耳少女たちが【収納】される音)
ガブリエラ「にゃっ、にゃにゃにゃ……!」
俺「じゃあ、武器と着ているものを全部残した状態で、出てこい。【収納】!」
――シュシュシュシュシュシュンッ!(全裸のノーラとネコ耳少女たちがでてきた音)
ノーラとネコ耳少女たち「「「「「きゃぁ~~~~~~~~ッ!?(しゃがみ込む)」」」」」
ノーラ「って、あれ? 『隷属の首輪』が消えてるにゃ?」
ネコ耳少女「ってことは、ウチらはもう自由の身ってことにゃのかにゃ?」
ネコ耳少女「にゃら、まずはあのガキとメイドをぶっ叩いて、姐御を救出するにゃ」
俺「待て待て待て待て」
――ピタッ(ガブリエラとノーラとネコ耳少女たちが動きを止めた音)
俺「……あれ?」
ガブリエラとノーラとネコ耳少女たち「……あれ?」
俺「えーと、【目録】」
『ガブリエラの隷属の首輪』
『ノーラの隷属の首輪』
『ネコ耳少女Aの隷属の首輪』『ネコ耳少女Bの隷属の首輪』『ネコ耳少女Cの……
俺「お座り」
――ザザザザッ(ネコたちが箱座りする音)
俺「なぁメイド、これって」
メイド「はい。奴隷に嵌める『隷属の首輪』は、相手に行動を強制させる力があります。
レジ坊ちゃまが彼女たちの『隷属の首輪』を衣服その他と一緒に【収納】してしまったため、【隷属】の所有権――つまり彼女たちの所有権がレジ坊ちゃまに移行されたのでしょう」
俺「え、それってもしかして、俺がこの子たちを、本来の所有者から盗んじゃったってこと?
それって非常にマズいんじゃ……。
それに、普通の【収納】って、【隷属】スキルを打ち消すような力は持っていないはずだよね!?」
メイド「はい。普通の【収納】は」
俺「うん。普通の【収納】は」
俺とメイド「「Oh…………」」
俺「ま、まぁいいや。【隷属】の効果ごと【収納】してしまったことも含めて、絶対に他言無用案件だし。
お前たち、ここで見聞きしたことは他言無用だ!
俺がお前らを生きたまま【収納】したことや、
俺がお前らの装備や衣類を【収納】の中で分離したことや、
俺がお前らの【隷属】の効果ごと【収納】したことは、
絶対に、何があっても、口にしてはいけない!
い・い・な!?」
ネコたち「「「「「イエス・マイ・ロード!」」」」」
こうして俺は、はからずも10匹のネコを飼うことになった。