11「【剣伯】現る」
――ガキィィイイイイイイイイイイイイイイインッ!!(メイドの剣と『そいつ』の剣がぶつかり合う音)
俺「メイド――ッ!」
――ギンッ、ギンッ、ギンッ!
――ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギンッ!
互いに残像を残しながら、斬り結び合うメイドと『そいつ』。
『そいつ』は人の形をしていて、剣を振るっている。
剣士なのだ。
だが、ただの剣士ではない。
【剣聖】ブルンヒルドと互角以上に戦える剣士なのだ。
いや、
――ぱっ
と、メイドの血が吹き出す。
メイドが腕を、脚を、胴を斬られていき、傷を増やしていく。
俺(メイド以上の腕だ! まさか、【剣伯】!?)
メイド「レジ坊ちゃま、逃げて!」
メイドが叫んだ、次の瞬間。
メイド「ぎゃッ――」
メイドの利き腕が斬り飛ばされた!
メイドの腕と剣が吹き飛んでいく。
???「肉ッ、肉ッ、肉ゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウッ!!」
俺「【収納】ッ!!」
――シュンッ!(『そいつ』の姿が消える音)
続けて、
俺「【収納】!」
メイドの腕が吹き飛んでいった方向――森一帯を、木々ごとごっそりと【収納】する。
血の一滴も余さず。
俺「ブルンヒルド!」
メイド「……(こくり)」
顔面蒼白のメイドがうなずいたので、俺はメイドを【収納】した。
俺(落ち着け、落ち着け俺。深呼吸だ。
大丈夫。収納する時点では、メイドはちゃんと生きていた。
俺の【収納】の中にいる間、メイドの時間は止まっている。だから、メイドが失血死する心配はない)
俺は【目録】のウィンドウを表示させ、震える指で操作する。
まずは、『ブルンヒルド』でソートをかける。
『ブルンヒルド』
『ブルンヒルドの腕』
『ブルンヒルドの剣』
『ブルンヒルドの血液』『ブルンヒルドの血液』『ブルンヒルドの血液』『ブルンヒルドの血液』『ブルンヒルドの血液』『ブルンヒルドの血液』……
俺は『ブルンヒルド』へ『ブルンヒルドの血液』を慎重に統合していく。
すべての血液を『ブルンヒルド』にくっつけたあとで、『ブルンヒルドの腕』を本体にくっつけた。
俺「【収納】!」
――シュンッ!(メイドが現れる音)
俺「大丈夫か!?」
メイド「(こくこく)」
俺「め、メイド……?」
メイド「……み、見えませんでした」
俺「え?」
メイド「後半、アイツの太刀筋が、ほとんど見えませんでした。
腕の一本で済んだのは、奇跡としか言いようがないです」
俺「そ、そんなバカな……」
メイド「アイツは、最低でも【剣伯】。もしかしたら【剣王】の可能性すらあります。
それにしても――(利き手をにぎにぎ)
違和感一つない。レジ坊ちゃまは部位欠損すら癒やす、【治癒聖】級の【治癒】使いでもあるのですね」
俺「くっつけることしかできないけどな」
メイド「『しか』って(苦笑)。
さて、襲いかかってきたあの人物ですが……」
俺「どんなやつだった?」
メイド「人型の生き物なのは間違いないです。
恐らくは、人間。
いや、獣の耳があったようにも見えたので、もしかしたら獣人かもしれませんが。
すみません。じっくり観察している余裕などなく」
俺「いや、気にするな。
その獣人ってのは、人間と対立してたりするのか?
魔物みたいに、人間をエサとみなしている?」
メイド「まさか。
まぁ人間よりも腕っぷしの強い者が多い分、荒くれ者が多い傾向はありますが。
大多数は理性的な存在ですよ。ソリッドステート領にもたくさん住んでおります」
俺「だよな。じゃあさっきのアイツが特殊だったのか」
メイド「なんというか、異常な興奮状態でした。
『肉』とか『喰ワセロ』とか言っていたので、異常な空腹で正気を失っていた、とか?」
俺「そんなのが村の近くをうろついていたら治安最悪だし、ソリッドステート領都の衛兵に突き出すか?
いや、でも【剣伯】級の腕前はちょっともったいないな」
メイド「味方に引き入れようとでも?」
俺「とにかく、話を聞いてみよう。
【目録】を収納時間でソートして。
ええと……あった! 『謎の剣士』を長押しする」
すると、『謎の剣士』が『謎の剣士』と『謎の剣士の装備』に細分化される。
『謎の剣士の装備』を長押しすると、さらに『剣』、『革鎧』、『革小手』、『服』……と細分化される。
俺は、『謎の剣士』と『謎の剣士の剣』を分離させた。
これで、アイツを武装解除することができたわけだ。
俺「では、外に出そうか。【収の】――」
メイド「待ってください!」
俺「んお?」
メイド「無手でも危険すぎます。すべての装備、着ているものを
【目録】の中でできますか?」
俺「たぶん。
『謎の剣士』から『謎の剣士の装備』をすべて分離させて(すいっすいっ)。
『謎の剣士の衣服』で『謎の剣士』を縛り上げるイメージを!」
『謎の剣士(縛)』
俺「おおっ。できたっぽい」
メイド「便利なものですねぇ!
【収納帝】が敵の軍勢を一瞬で【収納】し、すっぽんぽんにさせたという建国神話そのものじゃないですか」
俺「よーし、じゃ少し離れたところに出すぞ」
メイド「ははっ(剣を構える)」
俺「【収納】!」
???「喰ワセロォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
手足を縛られた『そいつ』が、ぴょんぴょん跳ねながら俺に噛みつこうとしてくる!
俺「うわあああっ!? 【収納】!」
――シュンッ!(『そいつ』が【収納】される音)
メイド「レジ坊ちゃま、ご無事で!?」
俺「な、なななナニあのバーサーカー!?
――あ、もしかして。【目録】」
俺は【目録】の中の『謎の剣士(縛)』を長押し。
すると、『謎の剣士(縛)』が『謎の剣士(縛)』と『バーサーカー状態』に細分化された。
俺「おおっ。やってみたら出てきた。
これもしかして、『毒』みたいに分離できるんじゃ?」
『バーサーカー状態』を長押ししてみると、思ったとおり『謎の剣士(縛)』から分離させることができた。
俺「では、【収納】!」
――シュンッ!(全裸の獣人が現れる音)
???「…………え? なんで裸……きゃああああああっ!?」
猫耳の生えた全裸の美少女が、その場にしゃがみ込んだ。
これが、のちに我が軍最強の将軍となるガブリエラ・オブ・バルルワとの出会いだった。