7「村長っ娘がぐいぐいくる」
その夜、メイドの【治癒】のお陰で大復活した村の大人たちによって、祝勝会 兼 歓迎会が開かれた。
俺(さすがは大人パワー。肉の解体に料理に会場設営にと、一瞬だったな)
俺とメイドは、教会の中庭に並べられたテーブルのお誕生日席に座っている。
俺(特に、村長っ娘の母親の段取り力といったら!
村人たちにテキパキと指示を飛ばしていて、様になっていた。さすがは元村長)
村長っ娘「お飲み物は足りてますか?
水とビネガーとワインとブドウジュースくらいしかありませんが。
ワインはまだダメですよね」
俺(良かった。ちゃんと、未成年にはお酒はNGな世界観らしい。
それにしても、この子、さっきからずっと隣にいるな。
俺が母親を治したことで、認めてくれたってことなのかな?)
村長っ娘「さぁさ、領主様!(俺に肉を勧めてくる) このお肉は絶品ですよ」
俺(それにしても懐いてくるな。
この子、最初は俺のことを『メイドのおまけ』みたいな目で見てたけど、今は俺自身のことを見ているというか、妙に距離が近いというか)
俺「(肉にかぶりつく)美味い! すっごくジューシーだ。
これ、豚の肉? この村、養豚もやってるんだ?」
村長っ娘「オーク肉ですよ」
俺「ぶぉっほ。ごほっごほっげふっ」
村長っ娘「【剣聖】様がたくさんたくさん屠ってくださいましたから。
これで当面は肉に心配は要りません」
俺(そ、そうか。二足歩行の魔物を食っちまう系世界観なのか。ファンタジー!)
メイド「レジ坊ちゃま、あーん」
俺「メイド、子供扱いするな」
メイド「事実、子供じゃないですか」
俺「子供だけど子供じゃないから子供扱いすんなって言ってんの」
メイド「ナルホド深いですねー。はい、あーん」
村長っ娘「領主様、私からも、あ、あーん!(顔真っ赤)」
俺(おや? もしかして:モテ期?
でも、6、7歳の幼女相手にモテてもなぁ。
まぁ、領主名代と村長という間柄、仲良くなっておくにこしたことはないし、いっちょやってみるか)
俺「ありがとう(ニコリ)。
ところで村長っ娘さん、俺のことは『レジ』って呼んでよ。
そこのメイドからもそう呼ばれてるし、同い年なんだからさ。
俺、7歳なんだけど、同い年だよね?」
村長っ娘「は、はいっ。7歳です(もじもじ)。
私のことも、どうかクララとお呼びくださいっ」
◆ ◇ ◆ ◇
『村長っ娘』
クララ・オブ・エンデ。エンデ村の村長クララ。
身長120センチばかりの小さな少女。可愛い。
茶色い瞳はくりりとしていて、長い茶色の髪を三つ編みにしている。可愛い。
服は『ザ・中世の村娘』といった服装。可愛い。
総じて可愛い。
【村長】という便利な補助スキルが使えるらしい。
数日前までは彼女の母親が【村長】スキル持ちの村長だったのだが、母親の負傷により若干7歳にして【村長】スキルと村長の座を受け継いだ。
【村長】スキルは一度誰かに引き継いだら戻せないスキルとのことなので、村長の座を母親に戻すことは難しいとのこと。
◆ ◇ ◆ ◇
村長っ娘「取り急ぎ、お2人に泊まっていただけるお部屋をご用意しました。
粗末な部屋で申し訳ございませんが……」
俺「いいよいいよ、気にしないで。
俺(実を言うと、【収納】の中に俺とメイド用のベッドが入ってるんだよね。
ネコババしちゃってごめんね、父。てへぺろ)
村長っ娘「非だなんてそんな!
お2人は我々エンデ村の命の恩人なんですから!」
――わいわい、がやがや
良い宴、良いお祭りだった。
夜が更けていった。
◆ ◇ ◆ ◇
――カンカンカンカンカンカンッ!
翌朝、俺たちはけたたましい鐘の音で叩き落された。
俺「なにごと!?」
メイド「魔物のようです」
俺「え、なんで分かるの?」
メイド「メイドは【気配察知】スキルも持っておりますので」
俺「え、すご」
――スラリ(メイドが抜剣する音)
メイド「出てまいります。レジ坊ちゃまはここに隠れていてください」
――トゥンク
俺(か、カッコイイ。俺が女だったら惚れてたね。
心配だけど、俺がついて行っても足手まといになるだけ、か)
俺「分かった。怪我しないよう気をつけてくれよ」
メイド「はい」
◆ ◇ ◆ ◇
小一時間後、メイドが戻ってきた。
敵は昨日と同じオークが集団で数十体。
すべて、討伐または撃退したとのこと。
俺「さすがはメイド!」
村長っ娘「【剣聖】様のお陰で、村人たちには怪我もありませんでした。
本当にありがとうございます!」
メイド「それほどでもあります(ドヤ顔気味のすまし顔)」
村長っ娘「ですが、門はもはや崩壊してしまって、壁もあちこちが崩されてしまいました。次に襲撃がきたら、もう……」
俺(うーん……あんまり実力は見せたくないんだけど、この子にはすでに毒の【収納】を見せちゃったから今さらか)
俺「俺が直してやるよ」
村長っ娘「どういうことです?」
◆ ◇ ◆ ◇
俺「お、おおう……これはもはや『門』じゃなくて『木くず』だな」
村長っ娘「はい……」
俺「今からやることは、くれぐれも他言無用で頼むぞ。
(きょろきょろ)他に誰も見てないな?
【収納】!」
――シュンッ!
村の入口に散らばっていた木の破片が消えた。
俺「【目録】!」
ウィンドウの中には、『扉の破片』『扉の破片』『扉の破片』『扉の破片』『扉の破片』『扉の破片』『扉の破片』『扉の破片』……という無数の文字が。
俺「これを、統合する。
『扉の破片』と『扉の破片』を統合していく。スワイプスワイプ」
無心になってスワイプし続けること数分。
やがて『扉の破片』が消えて『扉』になった。
俺「【収納】!」
――シュンッ!(扉が、きれいサッパリ修復された姿で現れる音)
村長っ娘「おおおおおっ!?
あれほどバラバラだった扉が、くっついてます!
割れた跡も見えません。表面もすべすべです」
メイド「さすがはレジ坊ちゃまの、【伯】級に限りなく近い【収納聖】ですね」
俺「あ、あはは……。
他に直してほしいところは?」
村長っ娘「そうですね。
【村長・アイ】!」
――ペカーーーーッ!(村長っ娘の目が光る音)
村長っ娘「えーと(村を見回しながら)、あちらの壁もだいぶ傷んでいます」
俺「ほーっ。それが【村長】スキル。便利なもんだ」
村長っ娘「農作物や井戸の状態や、村人の健康状態なんかもチェックできるんですよ(ドヤ顔)」
俺「なるほど。【村長】スキル持ちが村長をするのが理にかなってるわけだ。
じゃあやるけど、周囲の目はないな?」
メイド「大丈夫でございます」
俺「では、【収納】!」
――シュンッ!(傷んだ壁と地面の木の破片が消える音)
俺「さっきと同じ要領で、『傷んだ壁』に『壁の破片』を統合していって――【収納】!」
――シュンッ!(元の場所に、修復済みの壁が現れる音)
村長っ娘「おおお! ありがとうございます!
本当、すっっっっごく便利なスキルですね。こんなの修復したり作り直そうと思ったら、何日もかかってしまうところです」
俺「繰り返すけど、他言無用にな。
あの扉は、俺がたまたま【収納】の中にぴったりな扉を持っていた、ってことにしてくれ。俺は扉マニアなんだ。
この壁も、誰かに聞かれたらそう答えておいてくれ。俺は壁マニアなんだ」
村長っ娘「ご命令とあらば。
ですが、なぜ隠すんです?」
俺「疲れるからだよ。
こんなことができるってバレたら、村の人たちがこぞって開墾とか堆肥作りを希望してくるだろ?
【収納】は魔力を消費する。全員の希望に付き合ってたら、魔力枯渇で俺が倒れてしまう」
村長っ娘「な、なるほど」
俺(まぁウソだけど。
【収納星】に付随する能力なのか知らないけど、いくら【収納】を使ってもちっとも疲れないんだよね。俺の魔力がバカデカいのか、俺の【収納】の燃費がめちゃくちゃ良いのか)
村長っ娘「あ、あのその(おどおど)」
俺「んお、どした?」
村長っ娘「気軽に頼んでしまいましたが、お体の調子は……?」
俺「まぁ1日に数回、この程度の作業なら問題ないよ。気にすんな」
村長っ娘「……ほっ。それは良かったです」
メイド「とはいえ、オークにさんざん攻撃されてボロボロになった扉や壁を一瞬で直すほどの神業は普通、『この程度』とは言いません。
ますます、この力のことは秘密にしておくべきかと。
ウワサになったりして、レジ坊ちゃまが人さらいなんかにさらわれた日には、終わってしまいますから」
俺「俺の人生が?」
メイド「さらった者の命が、です」
俺「追いかけて助けてくれるってか。頼もしいねぇ」
俺(とはいえ、メイドの言うとおりなんだよね。
教祖ルートも実験動物ルートもごめんだけど、さらわれルートもかんべん願いたい。
それにしても、俺のスキルの性能って、これでもまだまだ氷山の一角なんだろうな……。
女神様は『山をずももったり、川をずびゃったり』とか怖いこと言っていたし。
やっぱり、何がなんでも隠しとおさないと!)
俺「ところで村長っ娘」
村長っ娘「クララとお呼びください」
俺「村長っ娘」
村長っ娘「クララ」
俺「村長っ娘」
村長っ娘「クララ」
俺「村長っ娘」
村長っ娘「村長っ娘」
俺「クララ」
村長っ娘「はい、クララですっ(にっこり)」
俺「…………んっ、あれ?
えーと、クララ。この村って、以前からこんな状態だったの?
つまり、前からこんなに頻繁に、魔物の襲撃があったのかってことなんだけど」
村長っ娘あらためクララ「いえ、そんなことはありませんでした。
はぐれのオークやゴブリン、それに動物系の魔物が村の近くに現れたり、畑を荒らすことはたまにありましたけど、オークの集団が、それも毎日のように襲撃にくるようなことなんて、今まで一度もありませんでした。
数日前から、急に現れるようになったんです」
俺「何か、森のほうで環境の変化があったのかな?
オークどもの食料がなくなったとか、オークが増えすぎたとか、オークを追い出すようなめちゃ強い存在が現れたとか?
メイド、これって父上に救援を求めることが可能な案件だよね?」
メイド「それは難しいかと」
俺「なんで?」
メイド「この村にはソリッドステート領軍を維持できるだけの食料はございませんし、
そんなに悠長に待っていられる状況ではございません。
――ほら」
――ブモオオォオォオオオオオオオオオオオッ!
俺(オークどもの吠える声!)
俺「もう第2波が来たのかよ!?
メイド、頼めるか!?」
メイド「無論」
――スラリ(メイドが抜剣する音)
◆ ◇ ◆ ◇
小一時間後、
メイド「こちらから打って出ましょう(キレ気味)」
俺「お、おう。どうしたメイド」
メイド「こうも頻繁に襲撃されては、レジ坊ちゃまとわたくしの素敵なお勉強ライフが送れません」
俺「俺は別に、勉強したくないからいいけど。
……あ、や、怒るなって、冗談だよ。好きだよ、勉強。サインコサインタンジェント~。
でも、単身で? 父上に頼んで腕の立つやつを2、3人くらい連れてくるって手も」
メイド「これほどの襲撃頻度。あのクソ豚ども、森の中に集落を形成している可能性がございます。その有無と、規模を見てくるだけでございます。
先ほどは、つい熱くなって『打って出ましょう』などと言ってしまいましたが、いわば斥候、様子を見てくるだけにございます。
どのみち、敵の規模が分からなければ領軍に救援を求めようにも求められません」
俺(なるほど、道理だな。
領軍から数人だけ派遣されて、敵が数百体もいたとしたら、そんなの焼け石に水。最悪、領軍は全滅、メイドも命に関わる事態になりかねない。
だからといって領軍から何百人も派遣されてきたとして、敵が数十体程度だったとしたら、戦力過剰だ。輜重部隊の編成・到着に時間がかかったうえ、村の食糧まで軍に食い尽くされて、そっち方面でダメージを受けかねない。
敵の正確な戦力を見極めて、適切な量の援軍を呼ばないと、良い結果には繋がらない)
俺「けど、たった一人でってのはやっぱり心配だ。
とはいえ俺が同行したところで足手まといにしかならないだろうし……」
メイド「ふふっ。乳を貸しただけの仲とはいえ、息子に心配されるほど、このメイド、落ちぶれてはございません。
そもそもメイドはソリッドステート領で一番強いので、中途半端な領軍の『腕利き』『ベテラン』など連れてこられても、足手まといにしかなりません」
俺(そりゃそうか! 着任初日も、何十体ものオークの首を狩りまくってたし)
メイド「というわけで、行ってまいります」
俺「気をつけろよ!」
◆ ◇ ◆ ◇
メイド「ダメでございました……(しおしお)」
俺(しおしおだ!
こんなしおしおメイド、初めて見たぞ!?)