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6「【収納魔法】は、実はチート級【解毒魔法】だった?」

メイド「毒です。この方は猛毒に侵されています」

俺と村長っ娘「「毒……ッ!?」」

メイド「何があったのですか?」

村長っ娘の母親「ごほっごほっ……3日前に、オークの槍に脇腹を刺されてしまい……ごほっ……それから、熱と震えと頭痛と吐き気と下痢が止まらず」

俺「オークに、そんな猛毒を作るだけの知恵と技術が!?」

メイド「簡単ですよ。糞尿があれば、簡単に作れます」

俺「あぁぁ……なんてこと」

メイド「メイドの【治癒】は、外傷や骨折などを癒やすことできても、病気を治すことはできません。ましてや、これほど悪化した病状は。
【治癒】とはまた別の、【解毒】スキルが必要です」

俺「この村に【解毒】持ちは?」

村長っ娘「いません……」

俺「ソリッドステート家には?」

メイド「おりませんね……」

俺「そっか……ソリッドステート領都を探し回れば、見つかるかも知れないけど……」
俺(いや、そもそも領都へは馬車で1日かかる。
 往復で2日だ。それほどの時間、この人がもつとはとても……。
 どうしよう、どうすれば)

村長っ娘「わ、私が毒消し草を取ってきます!
 村の隣に広がる『魔の森』は、魔物も多いけど有用な薬草も多いんです」

俺「危険だ。ついさっきまでオークの大軍がいたんだぞ?」

母親「クララ、アナタにはつらい思いをさせるけど、私のことはもう諦めなさい。
 アナタは【村長】スキルを活かしてこの村を維持し、強い男性を婿にとって、そのスキルを次代へ引き継ぐのです」

村長っ娘「う、ううう……」

俺(駄目だ、見てられない)

メイド「レジ坊ちゃま、どちらへ?」

俺「ちょっとトイレ(家を出る)」

メイド「そっちは森の方角ですが(ついて来る)。
 それに、レジ坊ちゃまには薬草を見分けるスキルも目もありませんよね?」

俺(バレてたか。実を言うと、俺には【鑑定】スキルがあるんだけど)
俺「心配ならついて来ればいいだろ」

メイド「危険です。坊ちゃまご自身がおっしゃったことではございませんか」

俺「だからって、見捨てろと!?」

メイド「……。
 …………。
 …………~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!(もだえ苦しむ)
 はぁ~~~~っ。
 実はメイドに、1つだけ考えがあります。
【収納】には、収納したものを確認できる【目録】という機能がございますよね」

俺「確か、【伯級】から使える機能だっけ」

メイド「はい。
 スキルというのは訓練すればするほど成長しますし、その日のコンディションでも威力が変わったりします。
 レジ坊ちゃまは区分けの上では【聖】級ですが、実は【伯】級に限りなく近い【聖】級かもしれませんし、強く強く念じてその分多量の魔力を消費すれば、一時的に【伯】級の力を発揮できるかも知れません」

俺「ナルホド。
 でもそれが、今の状況にどう関係すると?」

メイド「初代皇帝の伝説には、
『敵の軍勢をまるまる【収納】した』
 というものの他に、
『軍勢を【収納】して、武器や装備、服を外して全裸で放り出した』
 というものがあるのです」

俺「! つまり村長っ娘の母親を収納して、毒だけ残して母親を出せば!?」

メイド「はい。あの方の体内から、毒を除去できるかもしれません」

俺「やってみる! ――【目録】!」

 ――シュンッ!(ウィンドウが表示される音)

俺とメイド「「出たぁあああああ!?」」

俺「で、出たな」

メイド「あっさり出ましたね。
 では、試しにこの薪を【収納】してください。メイドが先ほど斬り捌いたやつです」

俺「普通、人間は木を『捌』いたりできないはずなんだけどなぁ。【収納】!」

 ――シュンッ!(薪が消える音)
 ウィンドウに『薪』が追加された。

俺(便利なもんだな)

メイド「『薪』を長押ししてみてください」

俺「おう。おおっ?
 『薪』の隣に『薪』と『水分』が表示されたぞ。細分化したってことなのかな?」

メイド「そこから、『薪』の『薪』だけを外に出すように念じてみてください」

俺「『薪』よ、『水分』を残して出てこい! 【収納】!」

 ――カランカランッ(薪が宙に現れ、転がる音)

メイド「これは……(薪を指で弾く)。
 カラッカラですね。よく燃えそうな、上質な薪です」

俺「じゃあ今度は、この『水分』を出したら? 【収納】!」

 ――チョロチョロチョロ……(水が宙から流れ落ちる音)

俺とメイド「「おおおっ」」

俺「ってことは、これで村長っ娘の母親から毒を分離できるはず!」

俺(…………あれ?
 メイドが俺にこんな助言をしてきたってことは、もしかしてメイドには、俺が【星】級だってことがバレているんじゃ?
 少なくとも【伯】級かそれ以上だと確信しているような……
 いや、ないないない。ない……よね?
 とにかく今は、村長っ娘の母親のことが先だ!)

 俺たちは村長宅に戻る。

俺「実はかくかくしかじかで、俺は【収納聖】だけど、調子の良い日は【伯】級の能力である【目録】が使えるんだ。
 この能力を使えば、キミのお母さんと毒を分離できるかもしれない」

村長っ娘と母親「「…………」」

俺(嫌がられるかな?
【収納】されるってことは、生殺与奪の権を握られるってことだし……)

母親「分かりました。お願いいたします」

村長っ娘「お母さん!?」

母親「どうせこのままでは死んでしまうのだから。
 ここは、領主名代様のお力を信じてみましょう」

村長っ娘「お母さんがそう言うなら……」

俺「では――【収納】!」

 ――シュンッ!
 母親の姿が消える。

俺「【目録】。
『村長っ娘の母親』を長押しして――
 出た! 『村長っ娘の母親』と『毒』に細分化された。
『村長っ娘の母親』よ、『毒』を残して出てこい! 【収納】!」

 ――シュンッ!
 ベッドの上に、母親が戻ってきた。

村長っ娘「お母さん!」

母親「…………(自分の体を見下ろす。みるみるうちに驚いた表情になる)。
 まったく苦しくない!(立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねる)。
 それどころか、体が驚くほど軽い! 若返ったみたい!」

俺(そりゃあ、『体にとっての毒』を全部取り除いたわけだからな。
 虫歯とか水虫とか雑多な病原菌なんかも、罹っていたとしたら一緒に取り除けたはずだし、それこそ漠然とした『不調』『不快感』も全部取り除けたはずだ。
 いわばこの人は今、『絶好調』の状態にあるわけだ)

村長っ娘「お“か“あ“さ“ぁ“~ん“!」

俺(その気になれば、便秘解消とか脂肪吸引みたいなこともできるのでは?)

 号泣して母親にしがみつく村長っ子を見守りながら、俺はじょじょに怖くなってくる。

俺(もしかして悪性腫瘍とかも? 俺ってもしかしてがんの特効薬になっちゃったのでは……。
 それに、老化細胞を分離することができれば、不老長寿なんかも実現できたりして。
 あわ、あわわわわ……もしかして俺、とんでもねー世界の扉を開いてしまったのでは!?)

 隣のメイドを見上げると、なぜか顔中汗まみれになっていた。




   ◆   ◇   ◆   ◇


■■■ Side メイド ■■■


メイド(でっっっっすよねーーーー!
 メイドには、こうなると分かっておりました。レジ坊ちゃまなら、人から『毒』だけをきれいさっぱり分離するという、【解毒聖】魔法使いですら不可能な絶技をあっさりこなしてしまう、と。
 だってレジ坊ちゃま、【収納星】なんですから!)

 レジ坊ちゃまと目が合いそうになり、メイドは視線をそらす。

メイド(動揺を悟られるわけにはまいりません。
 メイドはいつなんどきも、冷静沈着で頼れるメイドとしてレジ坊ちゃまのおそばに侍っていなければ。

 ……あぁしかし、【目録】のことをお話したのは失敗でした。
 せっかくレジ坊ちゃまがご自身のスキルを【収納聖】だと勘違いなさっておいでだったのに、【目録】が使えてしまったことで、少なくとも『限りなく【伯】級に近い【聖】級』であると証明してしまいました。

 でもだからって、どうしろと!?
 あの場では、ああするしかありませんでした。
 でなければ、レジ坊ちゃまは単身でも森に入ろうとしていたでしょう)

メイド「あの……レジ坊ちゃま?」

レジ坊ちゃま「おう。何だメイド」

メイド「その力はたいへんに便利ですが、おおやけになさらないほうがよろしいかと」

レジ坊ちゃま「うーん……(考え込む)。
 そうだな、そうするよ」

メイド(あれ? てっきり、『なぜだ』と聞かれるものだと)

レジ坊ちゃま「この力、便利すぎる。これがあったら、
 肉の解体も、
 堆肥作りも、
 薬草からの薬効抽出も、
 便秘解消も、
 角質除去も思いのまま。
 この力を開示してしまったら、利用希望者が殺到して、俺がのんびりスローライフを楽しむヒマがなくなってしまう」

メイド「そ、そうでございますね!
 って、ヒマがあるなら微分積分の勉強を――」

レジ坊ちゃま「勉強はやだ」

メイド(レジ坊ちゃまが怠け者気質でよかった~~~~!
 このまま勉強漬けにして、【収納】無しでも村を収められるような立派な領主名代に育て上げましょう。
 そのうち【収納】の存在を忘れてくださればベストなのですが)

レジ坊ちゃま「というわけで村長っ娘とお母さん、今見たことは、くれぐれも内密に。
『お母さんの毒はそれほど深刻な状態ではなかった』
『俺がたまたま持っていた解毒薬が効いて、治った』
 ということにしてください。い・い・で・す・ね?」

村長と母親「「(こくこくこくこく!)」」

メイド(まかり間違っても、レジ坊ちゃまが【収納星】としてその名を轟かせ、それが皇室の耳に届くようなことにはならないようにしなければ。
 レジ坊ちゃまがご自身のスキルの正体に気づき、
『俺がソリッドステート辺境伯領の領主に、いや、メディア帝国の皇帝になる!』
 なんて言い出した日には、わたくしは旦那様の密命に従い、レジ坊ちゃまをこ、こ、殺さなければなりません。
 こんなにも可愛いレジ坊ちゃまを……)

 メイドは目を閉じる。

メイド(あぁ、今でも昨日のことのように思い出せます。
 生まれたばかりのレジ坊ちゃまを初めて抱き上げた時のことを。
 レジ坊ちゃまが、初めてわたくしのおっぱいを吸ってくださった時のことを。
 最近は少し擦れてしまったところがありますが、ニヒルに構えているところもまた可愛くて可愛くて。
 だからこそ、お守りしなければ。レジ坊ちゃまの命と、幸せな未来を!)

 レジ坊ちゃまが怪訝そうな顔でメイドを見上げている。
 メイドは力強く微笑んでみせた。
 レジ坊ちゃまが首を傾げた。

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