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5「メイドは剣だけでなく治癒魔法も使える」

 話は冒頭に戻ってくる。
 不用心な俺が、うっかりオークどもの首を【収納】してしまったところにまで。

幼女「オークの首を狩ることができたということはやはり、英雄様は【伯】級、いや【王】級、いやいや【帝】級の大英雄様なのでは!?」

俺「ち、違ウヨ……【聖】級ダヨ……」

幼女「ということは、やっぱり【剣聖】様!?
 こんなへんぴな村に【剣聖】様が訪れてくださるなんて、なんたる幸運!
 どうぞ、お気の済むまで滞在なさってください。
 なんなら永住してくださっても――」

俺(何なんだ、この幼女? やけに言動が大人びてるけど)
俺「改めて言うけど、違うよ。【剣聖】はこの子(メイドを指差す)」

メイド「この子、って。お乳母(かあ)さんと呼びなさい」

俺「たまに変なことを言うけど、頭がオカシイだけなんだ。
 そっとしておいてあげて(にっこり)」

メイド「レジ坊ちゃまのメイド 兼 護衛 兼 乳母のブルンヒルド・オブ・ソリッドステートと申します(優雅に礼)」

俺「おいメイド、乳母は引退しただろ」

メイド「ついさっきわたくしをお乳母(かあ)さん呼びしたバブちゃんが、何か仰っておいでですね」

俺「ぐぬぬ……」

幼女「ソリッドステート……ってもしかして、【剣聖】ブルンヒルド様!?」

俺(おおっ。メイドの名は、こんな村にまで轟いているのか)

メイド「そしてこのお方が、私のご主人様のレジ坊ちゃまです。ぱんぱかぱ~ん。拍手」

幼女「……えーと。【収納聖】が【剣聖】のご主人様?(首を傾げる)
【収納聖】って、【聖】級とはいってもザコスキルじゃないですか。
 比較的安価な『マジックバッグ』と同程度の容量しか収納できなかったはずです。
 それが、生きた魔物の首を狩るなんてこと、できるわけが――」

俺「お、俺は【収納】しただけだよ」

メイド「そ、そうでございます!」

俺(おっ、メイドが加勢してくれた!?)

メイド「首を狩ったのは、わたくしです。ほら、このように」

 ――シュシュシュシュッ、チンッ(メイドが抜剣し、目で追えない速度で何度も剣を振るってから納剣する音)

 ――ドサドサドサドサッ(そばに生えていた樹木が薪になって落下した音)

俺と幼女「「なっ、ななな……っ!」」

メイド「とまぁこのように、メイドは【剣聖】ですので、大きな木を一瞬で薪に変えることも、複数体のオークの首を遠距離から狩ることも、朝飯前なのでございます」

俺(メイドやっぱTUEEEEEEEEEEEEEEEE!
 やっぱり、俺の【収納】がオークどもの首を狩ったってのは勘違いだったんだな。
 首はすでにメイドの剣によって絶たれていて、俺はそれを【収納】しただけだったんだ)
俺「そう、そうなんだよ!
 ほら、【収納】!」

 ――ドサドサドサドサッ!(オークどもの首が虚空から現れる音)

俺「見てみなよ、この滑らかな断面を!
 これが我が領が誇る、最強メイドの実力なんだぜ!」

メイド「…………え? な、何この、鏡みたいな切り口は。
 半信半疑でしたが、レジ坊ちゃまは辺境伯閣下の仰るとおり、本当に――」

俺「…………え?」

俺とメイド「「……………………え?」」

俺「ぅぉおおおっほん!
 とにかくっ。俺はこの村の村長に会いたいんだ。村長はどこにいる?」




幼女「私が村長です」




 幼女が、衝撃の事実を口にした。
 幼女の後ろで武装している子供たちが、うんうんとうなずいている。

俺「……どゆこと?」

幼女あらため村長っ娘「いえ、ですから、私がこの村の村長です。
 数日前までは私の母が村長を勤めていたのですが、急に魔物が活発化し、それで――。
 ところで【剣聖】様のご主人様を名乗るアナタはどちら様で?」

俺「あ、ああ、失礼した。
 俺はストレジオ・ソリッドステート。
 名前のとおり、この辺境伯領を統治する家の者だ。
 といっても、追放された身だけど……一応、この村の領主名代を仰せつかっている」

村長っ娘「ソリッドステート……お、オブ無しってことは領主様のご子息!?
 あわ、あわわ、それを私、ザコスキルとか……。
 お、お許しくださいーーーーっ!(土下座)」

俺(うわっ。この世界にも土下座とかあるんだ)
俺「大丈夫っ、大丈夫だから。
 俺みたいな子供が領主名代とか言われても戸惑うだろうし。
 それで、キミが村長っていうのは本当なんだよね? 遊びとかではなく」

村長っ娘「はい。私が村長です」

俺「じゃあ教えてほしいんだけど、どうしてキミや、子供たちが武装しているの?
 大人たちはいないの?
 そういえばさっき、『魔物が活発化し、それで』とか言ってたけど」

メイド「レジ坊ちゃま(俺の口を塞いでくる)」

俺「――はっ!?
 ご、ごめん! 配慮にかける発言を……」

村長っ娘「お母さんは……うっうっうっ(泣き出す)」

俺「ごめん、俺が悪かったよ。お願いだから泣かないで」

村長っ娘「お母さんは、お母さんは……」

俺「つらかったね。無理に言う必要はないよ」

村長っ娘「魔物に襲われて、大怪我を負ってしまって!」

俺とメイド「「……………………はい?」」

俺「生きてるの!? それならそうと早く言ってよ!」

村長っ娘「…………え?」

俺「(ニヤリ)うちのメイドは、【治癒】魔法も使えるんだぜ。
 しかも聞いて驚け、【上級治癒】だ!」

村長っ娘「な、ななななんと『二重スキル持ち(ダブルホルダー)』なのですか!?
 いえ、そんなことより!
 治していただけるんですね!? ついて来てください!」




   ◆   ◇   ◆   ◇




 案内されたのは、村の中心にある教会だった。

俺(教会が村の真ん中にあって、集会場みたいになってる。
 小さな村や街あるあるだな)

大人の村人「うう……」
大人の村人「いてぇ……いてぇよぉ」

俺(怪我人たちが集められている。ここが最終防衛ラインってことなのかな。
 みんな、大人だ。女性もいる。数十名はいるな。
 彼らが最初に魔物たちと戦って、戦える大人が全員やられたから、子供までもが武器を手に取ったってことなのか)
俺「それで、キミのお母さんは?」

村長っ娘「母はここにはおりません。自宅で伏せっています」

俺「え?」

村長っ娘「元村長である母が村民より先に便宜を図ってもらうのは、よくありませんので」

俺(なんと! 責任感の強い、良い子だな。こんなに幼いのに)
俺「というわけだ。メイド、頼む」

メイド「まったく、メイド使いの荒い御主人様ですね。
 ※※※※・※※※※※※※・※※※※※※※※――(詠唱)。
【エリア・ヒール】ッ!」

 ――パァァァッ!
 と、メイドの手の平から光が溢れ、部屋を満たした。

村人「あれ? 痛くなくなった?」
村人「傷が塞がっちまっただ!」
村人「骨折していたはずなのに、このとおり歩けるぞ!」

 大喜びの村人たち。
 メイドに向かって「ありがたやありがたや」と拝みはじめる。

俺「ご挨拶をさせていただきますね」

 ――ざわり。
 村人たちの視線が俺に集中した。
 メイドが、俺の一歩『後ろ』に立つ。

俺(上手いな、メイド。
 たった今自分たちを癒やしたメイドが、俺に侍っているというポーズを取る。
 当然、村人たちは俺に一目置くことになる。
 さて、挨拶だ。丁寧に、けれど過度に(へりくだ)りすぎないように。
 下手に出すぎると誤解を招くし、かえって彼らを不安にさせてしまうから)

俺「この度、この村の領主名代を賜りました、ストレジオ・ソリッドステートです」

村人たち「「「「「お、お貴族様っ!?」」」」」

俺「彼女は私のメイド。このとおり【上級治癒】が使え、加えて剣の腕も立つ【剣聖】です。
 村を襲ったオークどもは――【収納】!」

 ――シュンッ!(俺の足元にオークの首が現れる音)

俺「このとおり、メイドが討伐しました。
 みなさんは、もう安全です」

 ――うおーーーーーーーーっ!
 ――わぁーーーーーーーーっ!
 ――ばんざーい! ばんざーい!

村人「救世主だ! 女神様はこの村をお見捨てにならなかったんだ!」
村人「それに、領主様も!」

俺(良かった、好意的に受け入れてもらえたようだ。これも全部、メイドのお陰だな)
俺「それじゃ村長っ娘、お母さんを治しにいこうか」

村長っ娘「はい!」




   ◆   ◇   ◆   ◇




 向かった先は木造平屋の、いかにも『村長』とか『豪農』といった風情の家だった。

村長っ娘「お母さん!(ベッドの母にすがりつく)」

俺(年相応だ。村長っ娘、やっぱり相当ムリしてるんだろうな)

村長っ娘「この人、【上級治癒】魔法使いなの。
 お母さんを治してくれるんだよ」

俺「メイド、頼む」

メイド「はい。
 ※※※※・※※※※※※※・※※※※※※※※――【ヒール】ッ!」

 ――パァァッ!
 村長っ娘の母親が光りに包まれる。
 やがて光が収まったが、母親は相変わらず苦しそうで、顔色は最悪。

メイド「これは……(渋面)。
 申し訳ございません、レジ坊ちゃま。メイドには、この方は治せません」

俺「そんなっ、どうして!?」

メイド「毒です。この方は猛毒に侵されています」

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