4「Side 父」
■■■ Side 父 ■■■
息子・ストレジオが洗礼の儀を受けた、その翌日。
書斎にて。
父「【収納星】……っ!? 【収納聖】ではなく!?」
神父「は、はい。
私は確かに見ました。虚空から突然、紙が現れて。
あの紙に描かれていた紋章は、【聖】のものではありません。
毎日聖書を読んでいる私が、見間違うはずもありません。
あれはまぎれもなく、【星】級の紋章!」
父「だがあの子は、自分のスキルのことを【収納聖】だと申告したのだぞ」
神父「勘違いなさったのでしょう。
人の身に【星】級の力が宿るなど、前代未聞のことですから」
父「そ、そうだな。
ありがとう。よく報告してくれた。
このことはくれぐれも他言無用にな(金貨の入った袋を神父に手渡す)」
神父「はい。もちろんです。
私は女神様と教会に仕える身ではありますが、同時に、この国に、そしてこの領に住まう民でもあります。
こんな争乱の種、怖くて中央に報告などできません」
◆ ◇ ◆ ◇
父は神父を下がらせ、代わりに妻――ストレジオの母を呼ぶ。
事のあらましを伝えると、妻は泣き崩れた。
妻「そうなると、ストレジオは……」
父「ああ。良くて、追放。
あの子が自分のスキルの正体に気づき、そのことを喧伝するようなら、最悪、殺すしかあるまい」
妻「ああっ、可哀想なストレジオ……っ!」
父(幸い、あの子は自分のスキルのことを【収納聖】だと勘違いしておるようだ。
それも当然の話だろう。
【天】、【神】、そして【星】――『天界3級』は有史以来、人間に発現したことがなかったスキルだ。
我々がその存在を知っているのは、単に女神教の聖書にそう記されているから、というだけのこと。
我々人間にとって、スキルとは9階級ではなく実質6階級。
だから、あの子が【ストレージ・スター】と目にして【収納星】ではなく【収納聖】だと勘違いするのも当然のことだ)
父「私が【農王】、長男が【炎伯】、次男が【生産聖】。
みな、ちょうど良いあんばいのスキルに収まっている。
帝国の辺境伯領は小国と言っても良い大きさだから、私が【王】級でも何も問題にならない。
【農】は『農作物の生産性を向上させるだけ』という非戦闘スキルだから、中央に脅威と受け取られにくい、ということもあるしな。
スキルは鍛えれば伸びるから、長男が領を継ぐ頃には、あやつも【炎王】になっていることだろう。
次男は【生産聖】か【生産伯】として、長男の治世を支えてくれれば良い」
父は妻の涙を拭う。
父「貴族家のスキルレベルというのは、実に繊細で難しい。
低すぎたら領民から侮られ、時に下剋上を招いてしまうし、
高すぎたら高すぎたで、皇室から謀反を疑われてしまう」
妻「現皇帝陛下は【従魔王】。
【王】級ながら、帝都周辺の魔物をすべて沈静化させるほどの力を持っているため、宮廷貴族からのウケが良く、皇帝としての地位を維持しておられます。
ですが、そのお子たちはいずれも【王】級や【伯】級、もしくはそれ以下で、しかも【従魔】ほどの有用なスキルではないとのおウワサです。
そんな中で、もし、辺境に初代皇帝をも凌ぐ【収納星】が生まれたとバレてしまったら……」
父「皇室は震え上がり、宮廷は引っくり返るだろうな。
現皇帝は宮廷貴族にはウケが良いが、【従魔】スキルの範囲外である地方領主貴族たちからはあまりよく思われていない。
魔物に苦しめられている地方を見捨てておきながら、地方から徴収した税でのうのうと暮らして……という積年の恨みが、地方貴族たちの胸の内にはあるからな。
そんな不満を溜めた地方貴族たちがストレジオを担ぎ上げて、内戦が勃発するやも……」
妻が震える。
父も震える。
父「そうならないよう、皇室は情報が広まる前に手を打つだろう。
つまり、ストレジオを無実の罪で速やかに処刑しようとするだろう。
もしくはシンプルに暗殺、か。
だから妻よ、分かっておくれ。
ストレジオを『無能な【収納聖】』として追放して、最南端の小さな村に隠す。
ストレジオは小さな村の領主として、その生涯を閉じる……それがあの子にとって、最もマシな人生になるはずなのだ。
あの子が、万が一にも自分のスキルの正体に気づかないよう、監視を付けることにしよう。
我が領で最も腕が立ち、頭も切れるメイド――【剣聖】ブルンヒルド・オブ・ソリッドステートを」
妻「可愛そうなストレジオ……」
父「支度金もたっぷり出そう。せめてもの餞別だ」