8「死闘と身バレ」
メイド「ダメでございました……(しおしお)」
俺(しおしおだ!
こんなしおしおメイド、初めて見たぞ!? 俺の体の記憶にもない。
新鮮で、なんか可愛いな)
メイド「……な、何か失礼なことをお考えになった気配が」
俺「別に。しおしおメイドは可愛いなって思っただけだけど」
メイド「!?(真っ赤)」
クララ「!? レジ様!(体をくっつけてくる)」
俺(おや? もしや本当に、モテ期到来か。
いやでも今はそれどころでは)
俺「それでどうしたんだ、しおしおメイド」
メイド「はい……。
森の中に、オークどもの集落を見つけました」
俺「大手柄じゃん!」
メイド「ありがとうございます。
ですが、やつら生意気にも石造りの簡易要塞を作っていやがりまして、その中に引きこもっているので数が分からないのでございます。
やつらは知能が低いので、対【収納】結界なんて張ってはいないだろうと思います。なので要塞ごと収納してやりたいのですが、マジックバッグには遠距離収納機能がなく……」
俺「だな。
けれど【収納聖】には、遠距離収納機能がある。【聖】の数少ない強みだな。
俺にそんな話をしたということは?」
メイド「はい。護衛 兼 メイド 兼 乳母失格ではございますが、オークの要塞までご同行願いたく」
俺「乳母はカンケーねぇだろ」
メイド「道中の魔物はすべて狩り尽くしました。万が一にもレジ坊ちゃまを危険になどさらさせはいたしません。
レジ坊ちゃまには森の陰からオークの簡易要塞を【収納】していただきます。
現れたオークが少数ならば、メイドがその場で狩ります。
大勢ならば、メイドがレジ坊ちゃまを抱えて退避いたしますのでご安心を」
俺「心配なんかしてねぇよ」
クララ「レジ様……」
俺「安心して待ってな(クララの頭を撫でる)」
◆ ◇ ◆ ◇
メイド「レジ坊ちゃまは7歳にして相当なスケコマシですね」
俺「そう? 村長と領主名代。仲良くしてて損はないと思うけど」
メイド「正論ですが……ぐぬぬ。
さて、見えてまいりました」
俺「うわっ、マジで石造りの要塞じゃん」
メイド「危険です。これ以上は前に出ないように。
それと(ぎゅっ)――【隠密】」
俺「んおっ、なんか生暖かい。これは?」
メイド「メイドの【隠密】スキルを付与したのでございます」
俺「メイド、どんだけスキル持ってんの」
メイド「スキルには先天性のものと後天性のものがあり、【気配察知】や【隠密】は後者です。
森での生活で身につけました」
俺「森で生活するメイド?」
メイド「メイドは、元冒険者でございましたので」
俺(絶対、Sランク冒険者とかだったんだろうなぁ)
メイド「それではレジ坊ちゃま、お願いいたします」
俺「おっけ(要塞に向けて手を掲げる)。【収納】!」
――シュンッ!(石造りの要塞が消える音)
――ブヒッ!?
――ブヒブヒィッ!?
――ブモッ、ブモオオオオオオオオオオオオオオオッ!
俺(うわ~~~~っ!? いっぱいいるぅ~~~~!)
メイド「数、38。
メイドの姿が、ブレた。
残像すら残す速度で駆け出したのだ。
――ビッ!
――ビッ!
――ビッ!
メイドの剣が風を切る。
一振り一殺。
オークどもの首が宙を舞う。
オークが、またたく間に数を減らしていく。
ものの数分で、オークの集落は全滅した。
俺「つ、TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
メイド「それほどでもございます。
ささ、もう出てきていただいて大丈夫でございます。
お手数ですが、オークどもを【収納】していただけますか? 村人たちが喜ぶことでしょう」
俺「そうだな。【収納】!」
――ぞわり
俺(ッ!? な、なんだこの感覚、悪寒!?)
――ゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
俺(かっ、体が動かない! シャウト攻撃を受けた!?)
次の瞬間、森の中から『そいつ』は現れた。
身の丈十数メートルはあろうかというその怪物は、
俺(ドラゴン――ッ!)
最強格の魔物が、大きな口を開いて俺に襲いかかってくる!
俺(体が動かない! ヤバい、死――)
――ガキィィイイイイイイインッ!(メイドの剣がドラゴンの牙を弾く音)
メイド「レジ坊っちゃんには指一本触れさせません!」
ドラゴンが鋭い爪をメイドに振り下ろす!
が、メイドが弾く。
ドラゴンの強烈な尻尾攻撃!
だがそれも、メイドが弾く。
――ギンッ、ギンッ、ギンッ!
――ガガガガガキィイインッ!
ドラゴンが、よろめいた!
――ビッ!
メイドの、残像すら見える【聖】級の一撃!
ドラゴンの首を狙ったその一撃は、
――ガキィィイイイイイイインッ!
俺「そんな、弾かれた!?」
メイド「動けますか、レジ坊ちゃま!? 逃げてください!」
俺(本当だ、動く! 時間経過でシャウトの効果が切れたのか?)
俺はドラゴンから距離を取る。
俺「そうだ! こんなときこそ、女神様にもらったあのスキルを!
――【鑑定】!」
『オリハルコン・ドラゴン』
という言葉が、俺の頭に浮かんできた。
俺「メイド、そいつはオリハルコン・ドラゴンだ!」
俺(――って、オリハルコン!?
ドラクエみたいなファンタジーの定番。世界一硬い物質じゃないか!)
――ガキィイイインッ!
――ギンッ、ギンッ、ギンッ、ギンッ!
メイドが猛攻を仕掛けるが、
俺(刃が通らない! オークの分厚い皮膚を豆腐みたいに斬り裂くメイドの【聖剣】が、ドラゴンの首に傷一つ与えられない。
名前のとおり、本当にオリハルコン製のウロコなのか?
だとしたら、勝てるわけが――)
やがて、メイドの傷が増えていく。
オリハルコン・ドラゴンの連続攻撃があまりにも苛烈で、【治癒】しているヒマがないのだ。
ついに、メイドが立ち止まってしまった。
――がぶり
メイドが、丸呑みされてしまった。
俺「ブルンヒルド――ッ!!」
俺は走り出す。
オリハルコン・ドラゴンを収納しようとして、
――グギャァァアアァアアアアアアアアアアアアッ!!
俺「!?」
ドラゴンがのたうち回る。
何度も何度も。
何かを吐き出そうとして、必死に口をパクパクさせている。
やがて、動かなくなった。
――がぱっ(ドラゴンの口が開く音)
メイド「ふーっ。間一髪でございました」
俺「メイド! よ、良かった、生きてた!
体は大丈夫なのか!?」
メイド「【治癒】――はい、大丈夫です。
外からでは傷を与えることができなかったため、内側から斬ったのです」
俺「な、なるほど。
食われたのも作戦のうちだったのか。さすがはメイドだぜ」
メイド「ですが……(座り込んでしまう)。
さすがのメイドも、限界でございます。
申し訳ございませんが、肩を貸していただけませんか?」
俺「おう、任せろ」
メイド「臭くて申し訳ございません。
お召し物を血と吐瀉物で汚してしまいますが……」
俺「気にすんな、そんなこと」
メイド「それはそうと、ドラゴンに飲み込まれる寸前、わたくしを名前で呼んではおられませんでしたか?(ニヤニヤ)」
俺「うぐっ……耳ざといやつめ」
――バサッ、バサッ、バサッ、ズゥゥウウウウウン……
――バサッ、バサッ、バサッ、ズゥゥウウウウウン……
――バサッ、バサッ、バサッ、ズゥゥウウウウウン……
さらに3体のオリハルコン・ドラゴンが、空から舞い降りてきた。
俺「あ、あぁぁ……」
メイド「レジ坊ちゃま……(よろよろと立ち上がり、剣を構える)、逃げてッ!」
俺「ムリだ、そんな体で! 一緒に逃げるぞ!」
メイド「追いつかれます。わたくしが時間を稼ぎますので」
――ゴアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
ドラゴンのうち1体が俺たちに襲いかかってきた!
――ガキィイイイインンッ!
メイドがドラゴンの爪を弾く。
メイド「行って! お願い!」
さらに2体が、左右からメイドに襲いかかる!
俺(どうしようどうしようどうしようッ!? どうすればッ!?)
俺の意識が引き伸ばされる。
走馬灯でも見ているような感覚。
ドラゴンどもの爪が、牙が、今にもメイドの肌に突き刺さろうとしている。
ゆっくりゆっくりと、けれど確実に、メイドの体に到達しつつある。
俺(俺の【収納星】なら、たとえオリハルコン・ドラゴンの首でも【収納】できる可能性はある。
でもそんな【神】業――【星】業をメイドに見せてしまったら、俺が【収納星】だとバレてしまう!
教祖ルートか実験動物ルートか――。
俺の平穏な人生が、終わる。永遠に奪われてしまう)
今、俺の前には2つのルートがある。
破滅ルートか、
メイド死亡ルートか。
俺(はっ、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!
悩むようなことか? 天秤にかけられるような問題か、その2つは?)
いつの間にか、俺は駆け出していた。
俺(メイドは俺の乳母だぞ。
直接吸った経験はなくとも、俺の体の中には、メイドに――ブルンヒルドに育ててもらった記憶が、可愛がってもらった記憶が、愛情を注いでもらった記憶がたくさん、たくさんあるんだ!
その恩を、返す。
俺が、ブルンヒルドを守るんだ!!)
俺はブルンヒルドを守るように、ブルンヒルドとドラゴンどもの間に割り込む。
俺「うおぉぉおおおおおおおおおおおッ!!
【収ぅぅうううううううううううう納】ぉぅううううううううううううううッ!!」
――シュシュシュンッ!(ドラゴンどもの首から上が【収納】される音)
――ズズズゥウウウウンン……(ドラゴンどもの亡骸が倒れる音)
メイド「……れ、レジ坊ちゃま……?」
俺「ブルンヒルド! 怪我は!?」
メイド「【治癒】――はい、大丈夫です」
俺「あぁ、あぁぁ……良かった、本当に、本当に」
メイド「レジ坊ちゃま……(3体のオリハルコン・ドラゴンの死体を見る)。
その、これは……?」
俺「あー、その……実は俺、【収納聖】ってのはウソで、本当は【収納星】なんだ」
メイド「…………………………………………。
…………………………………。
……………………。
…………。
存じ上げておりました」
メイドがうやうやしく礼をする。
メイド「レジ坊ちゃま――――……いえ、人類史上初となる【星】級スキルに目覚められた、恐らくはこの領を、帝国を、大陸を、いえ、この星をすら支配するにふさわしい『
ストレジオ・ソリッドステート陛下」
俺「…………え?
えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?!?!?」