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わたし達の様子を伺っている。
瀬野さんが目で合図した。わたしがブランコに戻ると、女の子はサッとその場から離れた。でも、遠くには行かない。警戒してる?
今一度、ブランコを漕ぐ。もう披露できる技がないんだが、どうしよう。とにかく、漕ぎ続けるか。
早坂さんも隣に座り、足をつけたままゆっくりと動く。
すると、少しして女の子が戻ってきた。
「キャーキャッキャッ」
小さな身体から発しているのは思えない、耳をつんざくような金切り声。あの頃と同じだ。
見ないようにしたが、わたしのすぐ横で飛び跳ねているのがわかった。
襲ってくるだろうか。そうじゃないと困る。その時を狙って掴まえる。来い。
瀬野さんもゆっくりと距離を縮める。
そして、その時がやってきた。
わたしが前に高く上がったタイミングで、女の子がジャンプし、わたしの背中にしがみついた。
そのまま後ろに引っ張られ、落ちる──と見せかけて、くるりと宙返りをした。
着地する前に、女の子の腕を掴んだ。
大きく見開いた目は、赤く染まっている。これもあの頃と同じだ。女の子は暴れる様子も見せず、ジッとわたしを見つめた。
「また会ったね。覚えてる?」
言葉が通じたかのように、女の子はニタァと笑い、鋭い牙をのぞかせる。そして、みるみる伸びる爪をわたしに見せた。
あの頃と同じだけど、今のわたしは怖くない。
早坂さんが後ろから、わたしが掴んでないほうの腕を掴んだ。ここで、驚いたように金切り声を上げる。女の子は腕を掴むわたしの手に噛みつこうとしたが、早坂さんが頭を押さえた。
「悪い子ね」
この小さな女の子を制御するなんて、いとも容易い事だ。それでも、普通の子供よりは力が強い。気を抜けば、痛い目にあうだろう。
「どうして人を襲うの?そうじゃなければ・・・」
「言ったところで無駄だ。伝わらんぞ。それに、最初から目が赤かった。凶暴化してるんだ」
瀬野さんが女の子の前にしゃがむと、女の子は威嚇するように金切り声を上げた。
「悪いな。子供でも、危害を加えている以上、始末するしかない。中条、お前がやるか?」
──もしかしたら、この子はただ、みんなと遊びたかっただけなのかもしれない。誰も気づいてくれず、1人ぼっちで、普通の子供が感じるように寂しかったのかも。それが、この子をこんな風にさせてしまったのかも。
どうしても、そんな風に考えてしまう自分がいる。