18
「まさに野性本能だな」
いつの間にか、瀬野さんがそこにいた。
「俺から9時の方向。一斉に見るなよ」
「え?」
「雪音ちゃん、さりげなく確認してみて」
「えっ・・・ああ・・・」意味を理解した。しかし、さりげなくってどうすれば?背伸びをしながら、瀬野さんから9時の方向、つまり、左に身体を向けた。
すぐに、わかった。敷地内にある植栽を囲む円形のベンチ。そこに、座っている。
──驚いた。あの子だ。
あの日、未来ちゃんと遊んでいたこの場所で会った、耳の生えた女の子。
あの時と、まったく同じ姿形をしている。
「中条、凝視するな」
「あ・・・すみません」
「ずいぶん小さいわね。あなたが子供の頃見た化け猫って・・・」
「同じ子です。間違いなく」
「そうか。追いかけても、逃げられるだろうな。おびき寄せるか」
「どうやって・・・ですか?」
「お前らがイチャついてたら姿を現したんだ。引き続きやれ」
「・・・イチャついてはいないですけど、遊んでればいいんですよね」再び、ブランコへ向かう。
「あなた、それにかこつけてさっきのリベンジするつもりでしょう」
「そんな事を言ってる場合ですか?今は、楽しんでる素振りを見せないと」
ブランコに、しっかりと足を掛ける。
「やっぱりそうじゃない」
助走をつけながら女の子に目をやると、こちらを見ながら足をブラブラしている。表情までは、見えない。
さっきと同じように、ここぞというタイミングで座板を蹴り上げ、鳥になった(気持ちは)。
早坂さんが受け止め体制に入ったのはわかったが、同じヘマはしない。
先程より遠くに、かつ着地も完璧に決めた。
早坂さんから「ひゅ〜」と、本日2度目の拍手をいただく。
「もう言う事ないわ」
「アレに似てるな・・・モモンガ」
モモンガ?受け止め方が、わからない。
──と、その時、動きがあった。
ベンチに座っていたあの子が、踊るようにスキップしながらこちらへ向かってきた。そして、サイドにあるブランコの支柱に、ぴょんとしがみつく。