15
「わっ」突然、頭をわしゃわしゃされる。
「懐かしい?」
サイドミラーで乱れた髪を直す。「はい・・・ここまで来ると覚えてます」
「静かで良い所ね」
「田舎、とも言いますけどね」
「着いたか?」
瀬野さんが席の間から顔を出した。まさに寝起きの顔だ。
「おはようございます。間も無くです」
「1時間も寝てたか。腰が痛い・・・シートに難ありだな」
「あらやだ!この人、グースカ寝てて人の車にケチつけてるわ!」
「中条が起きるから喋るなって、お前が言ったんだろう。寝る以外ない」
「・・・すみません。あ、早坂さん、あの信号を右折してください。そうすると団地に入るんで」
「りょーかい」
車線の無い道路をゆっくり進むと、また懐かしい景色が見えてきた。小学生の時、友達が住んでいたマンションだ。何回か遊びに行ったな。その隣にあった小さな食堂は、建物が無くなっている。遊びに行った帰りにあそこを通ると良い匂いがして、グーグーとお腹が鳴っていたのを思い出す。
「あの奥に見えるのがそうです。駐車場も無いんですけど、手前に停めれるんで」
「あいあい」
早坂さんはわたしの言う通り、公園入口にあるアーチ型の柵の前に停車した。ここなら車もすれ違えるから大丈夫だろう。
車を降り、3人で敷地内へ入る。
「誰もいないな」
「5時過ぎてますからね。子供達は帰ってると思います」
「・・・5時でか?」
「え?はい、わたしも小学生の時はそうでしたよ。昔は5時を知らせる放送が鳴ってたけど、今はどうだろ」
「ずいぶん早いな」
「そんなもんでしょ。今は明るいけど、冬場になると5時なんてもう暗いわよ。お子ちゃまはお家へ帰るじ・か・ん」
──懐かしさを感じない理由が、わかった。
遊具が変わっている。4連だったブランコは2連になり、滑り台もあの頃より小さくなっている。配置場所も、あの頃とは全く違う。
まあ、20年近くも経てば、そうなるか。
「何も居ないし、感じないな。子供達が遊んでないと現れないんじゃないか」
「遊べばいいのよ」
「・・・誰が」