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「どーゆうこと?」
いつもと変わらぬ表情に見えるが──「若干、イライラしてません?」
「そお?」
「・・・違うんだったらいいんですけど」
早坂さんは、ダッシュボードに置いてあったタオルをわたしの頭に被せた。
「まあ、多少ね」
「えっ」
「シートベルトして」
早坂さんは、ゆっくりと車を走らせた。ワイパーが忙しなく動いているが、この雨ではあまり意味を成していない。
「こんな雨の日に、わざわざすみません」
「いいのよ、あたしが来たくて来たんだから」
「店のトラブルって、大丈夫なんですか?」
早坂さんはうんざりしたように息を吐いた。「ええ、お客さんと従業員の女の子がちょっとトラブっちゃってね。お得意さんなんだけど、酒癖に問題ありで、女の子に絡むのよ」
「あー・・・どこでもあるんですね」あのセクハラジジイを思い出した。
「いつもは慣れてる人間が相手するんだけど、今日はたまたま新人の子でね。反抗したのが気に食わないって騒いで、あたしが呼ばれたわけ」
「それで、どうなったんですか?」
「その人、元々あたしとは古い中だから、しばらく話に付き合って宥めたわ。そのあと家まで送って行って、この時間よ」
「ご苦労様です」
早坂さんはまた、深く息を吐いた。「飲み過ぎなければそうでもないんだけどねえ。一定量超えると、人格が変わるのよ」
「・・・わかる気がします。春香もそうなので」
「あら、そうなの。まあ、なんとなく強そうよね、あの子」
「強いなんてもんじゃないですよ。わたしが1杯飲み終わる前に3杯目に突入してるし、ビールからハイボールに切り替えて3杯目から酔い出すんですよ。その後はひたすら怒り上戸です」
早坂さんはハハッと笑った。「怒り上戸か。泣き上戸よりは良い気がするけど」
「確かに・・・ていうか、早坂さんって、どういう立場なんですか?そのお店で」
早坂さんは一瞬、驚いたようにわたしを見た。「経営者よ」
「・・・えっ!!」
「あれ、言ってなかったかしら?」
「聞いてません。ていうか、早坂さん自分の事全然言わないから、ほとんど知りません」若干、キツイ言い方になってしまった。
「あらあ・・・でも、あなたも特に聞いてこないじゃない」口を尖らせ、イジケアピールだ。