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──これは、かなりの密着度だ。
一真くんの腕に、私の肩がピッタリとくっついている。こんな予定ではなかったんだが・・・変に離れても、意識してると思われるよね。
と、その時、眩しいライトと共に1台の車がこちらへ向かって来た。店の前の路肩に、水しぶきを上げながら急停止する。早坂さんだ。
「一真くん、ありがとう」
このまま別れようと思ったが、案の定、運転席のドアが開いた。だから、来なくていいんですけどおおおおお。
「雪音ちゃんっ」傘を差した早坂さんが、走ってこっちへ向かって来る。「遅くなってごめんなさい、店でちょっとトラブルがあって」
「いえ、まだ時間前ですよ?今日はウチが早く終わったんで」
早坂さんはわたしの腕を引っ張ると、自分の傘の範囲に入れた。そして一真くんを見て、ニコリと笑う。「一真くん、よね?一緒に待っててくれたの?」
「はい。早坂さんですよね?今日で会うの2回目ですね」一真くんも、爽やか笑顔だ。
「そうそう、昨日は雪音ちゃん送ってくれたんですって?ありがとう」
オカン目線?
「いえ、俺が送りたくて送っただけですから、礼はいりませんよ」
──・・・なんだろう、この、"うさんくさい"空気は。一言、気まずい。
「・・・じゃあ、一真くん、ありがとね。気をつけて帰ってね」
「あ、雪音さん傘」
「いいよ、持ってって。これは次に一真くんが店に来た時返すね」
早坂さんはわたしの手から傘を奪い取ると、肩を掴み、更に自分に寄せた。
「大丈夫よ、あたしのがあるから」笑顔で一真くんに傘を返す。「じゃあ行きましょうか。一真くんも気をつけて帰ってね」
肩を掴む腕に、強引に車へ連行される。ガッチリとホールドされ、顔だけ振り向くのがやっとだった。「じゃあね一真くん!また店で!」
「雪音さん!また明日!」一真くんは手を振っ
ているが、振り返せない。そっか、明日も出るのね。
早坂さんは助手席のドアを開けて、わたしが乗り込むまで傘を差していてくれた。というか、1本しかないのだから、そうするしかない。
自分も運転席へ戻り、濡れた傘を後部席の足元へ投げる。
「すごい雨ね。長靴が必要だわ」
「・・・大丈夫ですか?」
「ええ、あなたは?濡れてない?」
「そうじゃなくて、早坂さんが」