15
「雪音ちゃん」
ベンチに足を乗せて丸くなる。「・・・母さんが生きてて、今、本当の事を言ったら、信じてくれたと思いますか。大人になったわたしが言ったら、信じてくれたかな」
早坂さんは、何も言わない。
そりゃあそうだ。わけのわからない事を言って、困らせてる。
「すみません。気にしな・・・わっ!」
突然、頭に触れる何か。振り向き、固まる。
「え・・・なんで?」
"本物の早坂さん"が、そこにいる。
「ベンチで体育座り?」早坂さんは優しく微笑み、わたしの涙を手で拭った。そして隣に座る。わたしの頭に触れ、自分の肩に寄せた。
「1人で泣くのはダメよ」
「な、なんで、いるんですか?」
「あら、いたらダメ?さっきまで店にいたからね」
「・・・店って、仕事中では?」
「あたしはフリーなの」
「この近くなんですか?」というか、この体勢落ち着かないんだが。顔が見えないのが救いだ。
「あなたのお店からそう遠くないわ」
「そうなんですか・・・」
早坂さんがわたしの髪を梳くように撫でる。「あなたが今、伝えたら、お母さんは信じてたと思うわ」
「・・・そうでしょうか」
「うん」
「・・・なんで?」
「だって、あなたの言う事だもの」
「・・・理由になってませんけど」
「どうして?あなたが言う事を、お母さんが信じないわけないじゃない。子供の時の事は、しょうがないと思うわ。あたしもそうだったもの。今のあなたを、お母さんはちゃんと受け入れてたわ」
「・・・断言ですか」
「ええ」
思わず、笑ってしまう。早坂さんは身体を離し、わたしの頬を両手で包んだ。「あたしも、あなたを信じてるわ。この先、どんな事があっても、あなたの事を信じる」
触れられた頬が、熱い。「・・・じゃあ、わたしが少々無茶しても信じてくれますか」
「それとこれとは別よ」早坂さんはすぐさまそっぽを向いた。
「なんでですか!信じるってそういう事では?」
「信じると心配は別ものよ。あなたの暴走に目を瞑る気はないわ」
「暴走って・・・まあ、そうですけど」今までの事を考えると、反論出来ない。