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「ていうか、あなた、こんな強風の時にそこで何してるの?飛ばされて川に落ちるわよ」
「落ちません。ちょっと、休憩です」
「何かあった?」
完璧に意表を突かれた。「・・・なんでですか?」
「声がいつもとちょっと違うから」
──わたし、顔だけじゃなく、声にも出るの?単純人間にも程があるだろう。
「何もないです」
「あたしで良かったら聞くわよ」
「何もないですって」
「言って、スッキリする事もあるんだから、言ってみなさい」
この人、耳が聞こえてないのか?
──なんで、いつも見抜かれるんだろう。単にわたしがわかりやすいだけかもしれないが、早坂さんに誤魔化しは通じない気がする。
「・・・初めて見た妖怪が、友達に怪我させたって話、覚えてますか?」
「ええ、小学生の時よね」
「はい。その子とはそれがキッカケで疎遠になってたんですけど、今になって会いたいって連絡が来て・・・さっき会ってきました」
「そうだったの。それで?」
「・・・謝られました。あの時、怪我したのをわたしのせいにしてごめんなさいって」
「うん」
「あの時、あそこには確実に何かがいて、わたしにはそれが見えるんでしょって」
「なんて言ったの?」
「迷ったけど、本当の事を言いました。そうだよって」
「相手の反応は?」
「固まってました。幽霊?って」わたしが笑うと、早坂さんも同調した。「まさか、向こうからそんな事言われると思ってなかったので、ビックリしました。信じてくれたのは嬉しかったです・・・」
「うん」
未来ちゃんが、信じてくれるとは思わなかった。信じてくれた事は、嬉しい。嬉しいはずなのに、心の何処かで、ずっとわたしのことを恨んでてほしかったと思う自分もいる。
どうしても、考えてしまう。なんで、母さんは信じてくれなかったんだろう。わたしが本当に信じてほしかったのは、母さんだったんだと。
今更そんな事を思っても、どうしようもない。どうにも出来ないのに、押し寄せる自分の中の闇を、どうしても拭う事が出来ない。