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未来ちゃんは、指で涙を拭った。「雪音ちゃんは、優しいね。あの時と変わらない。あの時も、わたしを責めなかった。悪いのは、わたしなのに」
──何も、言えなかった。
「わたしね、本当はわかってたの」
「え?」
「雪音ちゃんがやったんじゃないって。でも、怖くて・・・あの時、わたしは何かに引っ張られた。絶対、あそこに何かが居たはず。そうでしょ?」
──何も、言えない。何て、答えたらいいの。未来ちゃんがどこまで本気で言っているか、わからない。
「あの時、雪音ちゃん、誰かに喋りかけてたよね。自分の足元指して、ここに居るって」
あの時は、わたし自身も、何かわかっていなかった。わたしにしか見えないという事実に恐れるわけでもなく、ただ不思議に思うだけだった。
「雪音ちゃん、"見える"んでしょ?」
とぼける事も出来た。でも、未来ちゃんの表情は真剣そのもので、本当の事を言わなければと思った。
「うん。見えるよ」
未来ちゃんは一点を見つめ、固まった。そうだと思っていても、核心を突かれると恐怖を感じるんだろう。信じているから、そう思うんだ。
「幽霊・・・?」
やっぱりそう来るかと、少し笑ってしまった。「正確には違うけど・・・」
「ごめん!やっぱいい!そこは知りたくないかも・・・」
「うん」わたしも、伝える気はない。
「・・・あの時、雪音ちゃんはわたしより上に居たのにね。わたしを引っ張れるわけないのに。何かが居たっていう事実を認めるのが怖くて・・・雪音ちゃんのせいにした。本当にごめんなさい」
わたしは今まで、未来ちゃんの立場になって考えた事があるだろうか。目に見えない何かが、自分を襲ってきたら?もしかしたらそれは、見えるよりも恐怖なのでは?
「・・・もう、謝らないで。未来ちゃんが怖かったのも、わかるから。誰も悪くないよ」
「言えなくて、辛かったよね。言っても、誰も信じてくれないから・・・あの時の雪音ちゃんの気持ちを考えると、本当に辛かったと思う。ごめんね、信じてあげれなくて」未来ちゃんの目から、涙がこぼれ落ちた。
「未来ちゃん、お願いだから、謝らないで。あの時は、お互い子供だったんだし、どうにも出来なかったよ。それより、泣かないで。わたしが泣かせてるみたいじゃん」笑いながら言うと、未来ちゃんもごめんと、笑った。