10
「そっか。良かったね」
──・・・なんだろう、この、"違和感"は。
言葉を交わす度に、押し寄せてくる。わたし達、こんなに普通に話せるんだ。話せていいの?
「アンタは全てが顔面に出るから、そこだけは気をつけなさいよ」
ふと、昨夜の記憶が脳裏に甦る。
「まあ、無理だろうけど」と、真っ赤な顔でワインを飲む春香の姿も。
「あ・・・ごめん。喋りすぎだよね、わたし」
「えっ?」自分を、殴りたくなった。「・・・いや、わたしこそ、ごめん。昨日ちょっと飲みすぎちゃってさ。実は、絶賛二日酔い中。わたし酒臭くない?」
「そうなんだ。全然臭くないよ」笑ってくれて、ホッとする。
「・・・いつ、海外から戻ってきたの?」
「高校に上がる時だよ。それまで、年に数回は帰ってきてたんだけどね。・・・突然、連絡してごめんね」
「ううん。ただ、よくわかったなって、わたしの連絡先」
「・・・高校で仲良くなった子に地元の子がいて、いろいろ聞き回ってもらったの。わたし達が住んでた所って田舎でしょ、学生時代に雪音ちゃんが地元を離れてなければ、もしかして辿り着けるんじゃないかって。そしたら、思いのほかすぐに共通の人物がわかって・・・雪音ちゃん、美人で運動神経抜群って有名だったみたいだから」
「・・・いや、そんなことは・・・」後者は認めるが。「そっか、そうなんだ」
「雪音ちゃん」
「ん?」
突然、未来ちゃんが頭を下げた。「あの時は、ごめんなさい」
「・・・え」
「公園で遊んでた時、わたしが落ちたのを雪音ちゃんのせいにした。本当にごめんなさい」
──・・・春香の、言う通りだった。
テーブルにギリギリの所まで頭を下げる未来ちゃんの身体が、僅かに震えている。
わたしは、未来ちゃんの額にそっと触れた。
「未来ちゃん、顔上げて」
ゆっくりと顔を上げた未来ちゃんは、目に涙を浮かべている。
「そういえば、そんな事もあったね。未来ちゃんに言われるまで忘れてたよ。てか、子供の頃の話でしょ。そんな事気にしてたの?」