12
「・・・未来ちゃん」
「ん?」
「信じてくれて、ありがとう」
わたしが未来ちゃんだったら、同じ事は出来なかったと思う。遥か昔の事をこんなに気に病み、理解するのも簡単ではなかったはずなのに、わたしを探してまで謝ろうとするのは、優しさ以外に何があるだろう。
「ありがとうは、わたしだよ。正直、会ってくれないと思ってたから・・・本当に、嬉しかった。ありがとう、雪音ちゃん」
「・・・なんかわたし達、ごめんとありがとうしか言ってなくない?」
未来ちゃんは、プッと笑った。「確かに」
それからは、これまでのお互いの歴史の報告会へと変わった。
未来ちゃんは日本語の他に英語と中国語が堪能らしく、ごちゃ混ぜになるから普段の会話に支障をきたしていると、笑いながら言っていた。わたしみたいな平凡な人間にとっては、尊敬以外の何者でもないが、本人にしかわからない苦労があるんだろう。
子供の話をする時は、必ずお腹に手を当て、まだ見えないその子に対して、母親の顔になる。
その姿が、とても微笑ましいと思った。
その後、未来ちゃんを駅まで送り届け、わたし達は別れた。
未来ちゃんは改札を抜けようとして、引き返し、こう言った。
「また、連絡してもいい?」
「もちろん。子供の顔も見なきゃいけないでしょ」
未来ちゃんは、やはりあの頃とまったく変わらない笑顔をわたしに向けると、姿が見えなくなるまで何度も振り向き、手を振っていた。
──・・・わたしも、帰ろう。
駅の階段を上る途中、息がしづらくなって足を止めた。
やめろ。考えてもしょうがない事を、考えるな。平常心、平常心。
自動販売機で水を買い、いつもの河原へ向かった。
今日は風が強いせいか、いつもより人が少ない。大きなキャリーケースを引いたお姉さんとすれ違い、思わず振り向いた。この河川敷でキャリー引いてる人、初めて見た。何処へ行くんだ?
今度は、自転車の荷台にCDプレイヤーを固定し、爆音を流しながら走行しているおじいさんとすれ違い、振り返る。ポータブルプレイヤー、知らないのか?
今日は、変な人に会う日だ。