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いつものように部屋でゴロゴロしながら、2人が出かけるのを待って、1階に下りた。
居間のドアを開けて、驚く。
「あれ、おばあちゃん?」
「雪音、おはよう」おばあちゃんはソファーに座り、膝掛けの上で編み物をしていた。
「今日はゲートボールに行かなかったの?」
「ああ、少し風邪気味でなあ。今日はお休みだ」
「大丈夫?」
「大丈夫だ。元気はある」
おばあちゃんは週末になると、近所のお友達と一緒にゲートボールをしに行くのが決まりだ。お昼前に帰ってきて、2人でのんびりとするのが、この家で唯一の癒しの時間になっている。
わたしはおばあちゃんの隣に座って、額に手を当てた。
「熱はないね。ご飯は食べた?」
「食べた。お前は?」
「わたしは朝食べないから」そう習慣付いてしまった。
「駄目だぞ、ご飯はちゃんと食べないと」
「大丈夫だよ。それ以外はもりもり食べてるから」
「その割に、痩せ子だなあ」
「動くからね。消費するんだよ」
おばあちゃんはおもむろにカーディガンのポケットを探ると、取り出した物を、わたしに握らせた。
「・・・1万円札?どうしたの?」
「小遣いだ。取っとけ」
「・・・おばあちゃん、大丈夫だよ。わたしバイトしてるし、お金はあるんだ」ポケットに戻そうとすると、わたしの手をぎゅっと握った。
「いいから、取っとけ。金はいくらあっても困る事はない」ただでさえ皮膚が薄いおばあちゃんの手が、力が入って血管が浮き出ている。わたしはおばあちゃんの手に、自分の手をそっと重ねた。
「ありがとう、おばあちゃん。遠慮なく頂くね。ふふ」
おばあちゃんも満足気に頷いた。しわくちゃになった1万円札を大事にポケットにしまう。
「本当はもっとやりたいんだけどなあ」
「おばあちゃんそんなにお金持ちなの?」と笑う。「1万円なんて、大金だよ。・・・あ、伯父さん達には言わないでね」
「言わないよ。貴史(たかし)からも素直に貰いなさい。アルバイトで稼いでるからって、お前はまだ子供なんだぞ?」
貴史とは、伯父の名前だ。おばあちゃんは、わたしがお金を貰ってない事、知ってるんだ。