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黙っていると、おばあちゃんがわたしの髪に触れた。梳くように撫でる。
「地毛が茶色いのは、母さん譲りだな」
「・・・そうだね。母さんはもっと茶色かったよ。高校の時、先輩に呼び出されて生意気だってシメられたんでしょ?」
おばあちゃんは目の皺をさらに深くして笑った。「そうだなあ。あの時は、わたしが怒られたよ。お母さんがこんな色に生んだせいだぁ!って」
「アハハ。そうだったんだ。おばあちゃんに怒っても、不可抗力だよね」
「性格は、似てないな」おばあちゃんの手が、髪からわたしの手に移る。「お前はしっかりしてる。見ていて心配になるほどな」
「そお?」おどけて見せる。
「幸江(さちえ)は昔から繊細だった。身体も弱ければ、気持ちも弱くてな。いつも泣いていたよ。そんな母親を見て育ったお前が、こんなに立派なのは、ばあちゃんの誇りだ」
「・・・わたしは立派なんかじゃないよ」
── 立派な人間が、母さんが死んだ時、あんな事を思うわけない。
無意識に握りしめていた手を、おばあちゃんの手がほぐした。親指でわたしの手の甲を撫でる。
「いつも、しっかりしようと思う必要はないからな。甘える時は甘えて、泣きたい時は泣いて、笑う時は笑う。それが出来て、当たり前の人間だ」
「・・・・・・ふふ、おばあちゃん。それ、今、同時にやってもいい?」
おばあちゃんが微笑んでくれるから、わたしも笑う。目から溢れ出る涙には、抗わない。
おばあちゃんの膝に頭を身を預けて、子供のように甘えるよ?
何も言わず、わたしを包み込むおばあちゃんの手に、母さんを重ねた。