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それから僅かして、大ムカデの動きがピタリと止まった。
「おわっ・・・」その反動で落ちそうになったが、なんとか踏ん張る。
なんで急に動きが・・・?2人が何かしたのか?
「中条!すぐ動き出すぞ!今の内に早く頭を狙え!」
瀬野さんが全部言い終わる前に、わたしはその頭を、両手で突き刺していた。
硬い──が、刃部分は全部刺さっている。こんなに小さなナイフで、本当に仕留められるのか・・・?
大ムカデは消える事もなく、時間が止まったように動かない。やっぱり、このナイフじゃ駄目だったのか?
また、動き出すんじゃ──覚悟をしたその時、変化があった。ヘッドライトをつけて確認する。大ムカデの体全体が、白い石のようになっている。
「えっ、なにコレ」そして尻尾のほうを見ると、塵のように消えかけていた。
ということは──仕留めたのか?
ヤッタ!と、喜んだのも束の間、えっ・・・このまま体が消えたら──わたしは?
「いやいや!ちょっと待ってー!」見ると、もう、胴体の半分近くまで塵になっている。「ギャ──!」
「雪音ちゃん!飛び降りなさい!」
2人がこちらを見上げている。「飛び降りるったって、この高さ・・・」
「あたしが受け止めるから!そのまま飛び降りなさい!」
この高さで、受け止められる?下手したら、早坂さんが怪我するんじゃ・・・。
その時ふと、目に入った物。垂れ下がった触覚は、まだ形を残している。考えてる時間は無い。わたしはその触覚にしがみつき猿のように滑り落ちた。
「なっ、何してるの雪音ちゃん!」
「おいおい、冗談だろ・・・」
ギリギリまで下がり、下を見る。大丈夫だ、降りれない高さではない。飛び降り、着地に備える。
──なんとなく、予想は出来ていた。こうなるだろうと。
華麗に着地を決める予定が、早坂さんの腕に掴まれていた。
「・・・ありがとうございます」
こんなに至近距離で早坂さんを見下ろす事は、ない。目を細めているのは、ヘッドライトが眩しいのか、わたしを咎めているのか。前者である事を願いたい。
早坂さんはゆっくりと、わたしを降ろした。