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「早坂さん!さっきの、もう1回やってくれませんか!」
「・・・さっきの?」
人間の言葉がわかるはずはないが、念のため、石を投げるジェスチャーで伝える。早坂さんはすぐに察した。
「・・・何する気?」
「大丈夫!危険な事はしないので信じてください!」暗闇じゃなければ、表情で嘘がバレていたはず。
「遊里!やれ!」
反応は鈍かったが、早坂さんは言う事を聞いてくれた。手に取った石を、さっきと同じように顔に向かって投げた。奴も、さっきと同じ反応だ。早坂さんを見下ろすが、すぐには襲ってこない。早坂さんはもう1度、石を手に取った。今度は強めに投げる。牙に当たり、カツンと音がした。
「ほら、その気色悪い牙へし折ってやるから、かかってきなさいよ」
やはり、人間の言葉が通じてるのでは?
まるで怒っているかのように、キシキシと音を鳴らし体をうねらせた。
───来る。
わたしは、ナイフを握りしめた。タイミングを間違えるな。
奴が動くと同時に、走った──。
お願い早坂さん・・・避けて!
早坂さんがジャンプして攻撃を避ける。その後ろに回る、わたし。ここまでわずか数秒。
そのまま助走をつけて、早坂さんの背中に飛び乗った。
「早坂さんごめんなさい!」
「・・・えっ」
早坂さんの肩を踏み台にして、力一杯飛んだ。
下は、毒だ。落ちたらたぶん死ぬ。でも大丈夫、わたしは跳躍力も人よりも長けている。
手を伸ばし、目の前の触覚を掴んだ。──ぎゃあああああああああああ!気持ち悪いぃぃぃぃぃぃ!
大泣きしながら、大ムカデの頭上に降り立った。
「雪音ちゃん!」
「中条!そこだ!突き刺せ!」
あまりの気持ち悪さに、一瞬、反応が遅れてしまった。大ムカデが、わたしを振り落とそうと頭を振り上げた。
わたしは咄嗟にナイフを口に咥え、もう片方の触覚を掴んだ。ぎゃあああああああ!やっぱり気持ち悪いぃぃぃぃぃぃ!身体が宙に浮かぶが、手は離さない。
今度は、頭を左右に振り始めた。バランスを取りながら振り落とされないようにするが、このままじゃナイフを突き刺すどころではない。
「瀬野!腹の部分は柔らかい!」
「ッ・・・わかった!」
振り回されているせいで、2人の声しか認識できない。