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「・・・何言ったんですか?」

「ただの挨拶よ」この笑顔が、胡散臭い。おじさんは怯えていた。ぜったい嘘だ。

「さあ、次はあなたよ、雪音ちゃん」

「え?」

「とりあえず、車に乗りましょう。送ってくわ」

「いえ、すぐそこだし、歩いて行けます」

早坂さんはジッとわたしを見据えた。そして、やや乱暴にわたしの手首を掴み、そのまま車へと連行される。
手は力強いが、歩調は穏やかだ。

「あの・・・」

助手席のドアを開け、わたしが乗るのを待っている。

「抱っこしてあげましょうか?」

「失礼しまっす!」


それから、家の前に車を停めるまで、早坂さんは無言だった。ライトとエンジンを切ると、車内がとても静かになる。
早坂さんはシートを軽く倒し、疲れたように体を預けた。

「雪音ちゃん」

「その前に!」思ったより声が響き、早坂さんも驚いている。「1つ言わせてください。・・・迷惑ばかりかけて、ごめんなさい。早坂さんが怒るのも、無理ないです。でも、来てくれて、嬉しかったです」

早坂さんは天井を見て、ふう・・・と息を吐いた。「本当に思い通りにならない子ね」
車の中じゃなければ、聞こえていなかったと思う。「本気で怒ろうと思ってたけど、もう無理だわ」

「・・・えっと・・・」

「あたしが怒ってる意味を履き違えないで。でも、何を言ったってあなたは、自己完結してしまうのよね。正直、腹が立つわ」

「・・・ええっと・・・」

「他人(ひと)の事には敏感で、自分には無頓着。危機感という概念は皆無ね。なんでかしら?」

早坂さんがシートから身体を起こし、わたしを向く。「あなたに言いたい事は山ほどあるけど、朝になりそうだからやめとくわ」

そんなにあるのか。

「1つ、お願いがあるんだけど」

「はい」

「仕事が終わった後、歩いて帰るのはやめてくれないかしら」

過保護モード突入。「・・・いや、でも・・・」

「このご時世、変な輩なんて腐るほどいるのよ。さっきの男だって、本当は何を考えていたかわからないでしょ。もっと危ない奴だったら、何処かに連れ込まれて乱暴されてたかもしれないのよ。そもそも、あなたには危機感が無さすぎる。だいたい、この時間に女の子1人で、しかもこんな人通りが少ない場所を、怖いと思わないわけ?それに、あたしが電話してなかったらどうしてたの?警察も呼ばずに、あの男がいなくなるまでずっとあそこで待つつもりだった?」

途中から火がついた早坂さんが一気に捲し立てた。──本当に、朝までかかりそうな勢いだ。ていうか、やめてないじゃん。



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