13
「どうしていいか、わからなかったんです。今回は何かされたわけじゃないし、警察呼ぶのも大袈裟かなって・・・」
「今回は?」
間髪入れず、早坂さんが食いついた。この口め、余計な事を。「・・・前に、トイレに連れ込まれそうになったことがあって。相手は酔っ払いでしたけど」
早坂さんの顔が険しくなる。「それで、どうしたの?」
「回し蹴りしました。そしたら向こうがよろついて転んで、その隙に逃げました」
「警察には?」
「言ってないです。関わりたくなかったので」
早坂さんはハンドルの上に突っ伏した。「頭痛くなってきたわ」
「でも、仕事帰りじゃないですよ。飲んでて、終電なくなって歩いて帰った時です」
「そーゆう問題じゃないわよ。益々心配になってきたわ・・・」
「そんな重く考えなくても・・・こうやって何もなかったわけだし」
「だ・か・ら、何かあってからじゃ遅いのよ。本当、首輪でも付けたいくらいだわ」
わたしは犬か。「早坂さんって、過保・・・心配性ですよね」
「・・・そお?初めて言われたわ」
「え、マジですか」意外だ。
「ええ、あたし基本的に人に興味ないもの」
「その割には・・・」
「あなたにはそうなのかもね。初めて会った時から、どうも気になるのよ。目が離せないし、面白いし」
最後のが引っかかったが、それより、── 気になるのほうが、気になるんですけど。まあ、深い意味はないのだろうけど。
「そうですか・・・」
「という事で、約束してくれるかしら?」
どーゆう事で?「心掛けますけど、電車逃した時は、歩いて帰りますよ」
「タクシーがあるじゃない」
「そんな身分ではございません」
「タクシー代あげるわよ」
「結構です」
「じゃあ、あたしが迎えに行くわ」
「・・・え」
「遅くなりそうな時はいつでも連絡して」
「・・・なんで、そこまでしてくれるんですか。会ったばかりなのに・・・」
早坂さんは、わたしに聞かれたことが意外だったようだ。いや、キョトンじゃないって。
「わからないわ」
「えええ・・・」
「ただ、あなたの事を守りたいって、強く思ってしまうのよ。迷惑かしら?」
そんなしょんぼりと言われても──・・・「いいえ」