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「その蛇を見つけましょう、か」笑いの合間に呟き、また高笑いする。「君は本当に、とてつもなく面白い子だ」
「落とし物を探すわけじゃないんだぞ」呆れ口調の瀬野さんに、財前さんがまた笑う。
「ありがとう、雪音ちゃん。そう言ってもらえて素直に嬉しいよ」それが本心なのは、表情でわかった。
「あの、その蛇を見つける方法は他にないんですか?」
「・・・ないわけではない。あやつの放つ妖気は他の妖怪とは比べ物にならないからね。僕達のような人間は、近くにいればわかるんだ」
わたしにも、わかるだろうか。
「君にも感じるはずだ。さっき僕の妖気に耐えられた君なら、正気を失わずにいられる。──それと、もう1つ。あやつの身体には、僕と同じアザがある。それは人間の姿に化けても消える事はない」
「・・・あの、お願いがあるんですが」
「なんだい?」
「非常に、言いづらいんですけど・・・」
「言ってみなさい」
「・・・さっきの右腕のアザ、写真撮ってもいいですか?」
財前さんは最初キョトンとしていたけど、すぐに笑ってくれた。「構わないよ」
携帯で撮ったアザの写真を、早坂さんが覗き込む。「それ、どうするの?」
「忘れないように、念の為」
「雪音ちゃん、ナイフを貰っただろう。今持ってるかい?」
「あ、はい。ポケットに入れてます」
「それでいい。肌身離さず、持っていなさい。もちろん、僕と会う時もね」
その意味はわかった。だから、返事はしなかった。
「2人の短刀とは違って小振りで頼りなく見えるかもしれないが、造りは頑丈だ。安心しなさい」
何に対して安心すればいいのか──「はい」と言っておく。
財前さんが、静かに立ち上がった。「今日はもう遅い。帰りなさい」
──なんだか、不思議な気持ちになった。この家に財前さんを1人残して帰ることに、妙な罪悪感を覚える。
財前さんは帰り際、君に会えて良かったと言った。わたしもです。と返すと、見たことのない優しい顔で微笑んだ。
わたしは正直、泣きそうになった。何故か、母の顔が浮かんだんだ。