11
「残念ながら、現実に起きている事なんだ。だから、君にお願いがある」
「はい」
「この先、僕が我を失い、危険だと判断した時は、躊躇なく僕を殺してほしい」
財前さんが笑顔で言うものだから、言葉の理解に時間がかかった。
「重く受け止めなくていいんだよ。これは元々、この2人に託してる事だ」早坂さんと瀬野さんの表情は、冷静そのものだ。「ただ、君にもその覚悟を持っていてほしいんだ。出来るかい?」
──そんな、簡単に聞くこと?
誰かを殺す覚悟なんて、持てるわけがない。
「僕は、君の事を認めているんだよ。僕に耐えられた君なら、大抵の事には対処出来る。いや、そうしなければならない」
「・・・さっき、思ったんです」口に出したはいいが、その先を上手く説明出来るか、不安だった。でも、3人は何も言わず待ってくれる。「財前さんが、わたしには全て応えてくれるって、頼みがあるって言った時、凄く、嬉しかったんです。自分も認められたんだ・・・"こっち側"に来たんだって・・・ワクワクしてしまったんです。──だから、わたしも協力します」
「・・・中条、その協力というのは・・・」
「はい、その蛇を見つけましょう」
─── 「クッ・・・」沈黙を破ってくれたのは、早坂さんだった。顔を背け、口元を押さえている。
「あのな、それが出来たら・・・」次は瀬野さんだ。
「わかってます。でも、財前さんを殺す前に、その蛇を見つけたいです」
「どうして、そう思うんだい」
「・・・さっき、わたしは本能でわかってるって言いましたよね。だから、本能に従います。わたしは、あなたがどんな人か知らないし、聞く気もないです。ただ、あなたを助けたいと思いました」
財前さんは虚ろな目でわたしを見ると、顔を伏せた。「僕の頼みは聞いてくれないということか」
再び流れる沈黙。──やばい。わたし、怒らせた?
「フ・・・フ・・・ハハハハハ」部屋に響き渡る、大きな笑い声。財前さんは気でも触れたように笑い始めた。
わたしは呆気に取られ、ポカンとする。助けを求めるように隣を見ると、声を発していないだけで、同じ状態だ。