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「なるほど、そういう事か・・・中条、財前さんはな」状況を察知した瀬野さんを、"隣の彼"が目で制した。
「雪音ちゃん、僕を怖いと思うかい?」彼の目は、しっかりとわたしを見据えている。
「・・・思います」
「どうしてだい?」表情は穏やかではあるが、内に秘められているものが、わたしを試しているような、面白がっているような、そんな気がした。それでもわたしは、正直に答えるしか出来ない。
「眼・・・というか、こう、全てを見透かされてるような・・・そーゆうところ?ですかね」
自分の発言の賛否を分析するより先に、彼が声を上げて笑った。「違うだろう。君が恐れなければならないのは、僕の姿形のはずだが」
賛否の分析は出来ないが、目に見えてわかるのは、目の前の人物は笑い、その隣の人物は呆れ、その向かいにいる人間は、可笑しそうだ。
「恐ろしい子だな」悪い意味ではないのは、彼の表情でわかった。「遊里の言う通り、心配する事は何もなさそうだね」
「でしょ?あたしの目に狂いはないわよ」
「雪音ちゃん、君はもう、本能でわかっているだろう?」
答えられないのは、長年培われた否定精神だ。
「財前さん、この子はあまり免疫が・・・」早坂さんの腕に触れ、その先を止めた。早坂さんは少し驚いているようだったけど、わたしが聞かれたことだ。わたしが答える。
「"財前さん"、あなたは、人間ですか?」彼の目を見て、言った。
少しの間、沈黙が流れる──。
財前さんはテーブルに肘を付き、顔の前で手を組んだ。「僕は、人間だよ。──半分は」
「え?」
「半分は、妖怪だ」
「・・・半分、ですか」
「ああ、僕を生んだ女性はただの人間だからね。ということは、わかるだろう?」
「・・・お父さん・・・が」
財前さんは静かに頷いた。頭の中を整理する。財前さんは半分人間で、半分妖怪。お母さんが人間で、お父さんが妖怪。その人間と妖怪の間に出来た子供、それが財前さん。
──そんなことが、ありうるんだろうか。理屈はわかっても、頭が追いつかない。