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そして、店内の時計が10時半を指したところで、店長がパンと手を鳴らした。「よし、これにて終了」
「これだけ暇なのも久しぶりよね」春香は基本、暇が嫌いだ。何もしない時間にストレスを感じるらしく、それなら死ぬほど忙しいほうがいいらしい。それも不思議な話だが。
「そういえば、近所の焼き鳥屋、今日がオープンじゃなかった?3日間限定で生ビール100円とかってやつ。春香行きたいって言ってたよね」
「ああ、そういえば今日だったわね。そっちに持ってかれたか」ちっと、舌打ちが聞こえた。
「明日も暇そうだねこりゃ」
「まあ最初だけよ。みんなあーゆうオープン記念とかに踊らされてるけど、終わったら知らんぷりよ」
「行きたいって言ってたけど」
「あたしは踊らされてるんじゃなく、ビールを純粋に愛する者として行きたいの」
「屁理屈アル中」
「なんなら今から行ってみる?店長の奢りで。時間的に空いてるんじゃない」
「俺はパース。明日早いんだよね」
「わたしも予定あり」オネエは迎えに来ると言っていたけど、何処まで来るんだろう。外を確認したが、それらしき人は見当たらない。
「予定って何よ。海外ドラマ?」
「いや、約束あって」
「今から?」
「うん」
「誰と?」
「誰とって・・・」
「男?」
──なんだろう、この尋問でも受けてるような気持ちは。気づけば店長も、わたしに注目している。
「男っていえば男だけど・・・」断言出来ない。
「はっ!?マジで!?誰っ!」春香の勢いに押されそうになる。
「誰って・・・あ、別にそーゆうんじゃないからね。ちょっと野暮用があって」
「何よ野暮用って。この時間から?デートじゃないの?」
「雪音ちゃん、まさか彼氏出来た?」店長はニヤついている。
「ちがーう、野暮用は野暮用!いいから掃除して帰りましょう皆さん」
春香は目を細めてわたしを見た。「怪しい」
それから掃除が終わるまで、春香と店長はコソコソと何かを話し、痛いほどの視線を感じたが、気づかないフリをした。
わたしが男と約束あるのが、そんなに珍しいか?──考えて、すぐに納得した。