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「雪音ちゃん!待ちなさい!」

待ってなんてられない。早くしないと、あの人が死んでしまう。

「ちっ、なんつー足の速さだ。遊里!早く追いつけ!」

「わかってるけどバカっ速いのよあの子!」

目に飛び込んできたのは、溺れている彼女だった。もがく彼女の首には緑色の物が巻きついている。わたしは勢いに任せて、川に飛び込んだ。



* 



「どうしたの、その顔。だいぶ酷いことになってるけど」

本日、火曜日、17時15分 ─。
出勤したわたしに掛けられた、第一声だ。

「昨日、あんま寝れなくて」

「海外ドラマか」

「んー・・・まあ」その海外ドラマも、どこまで観たか覚えていない。流してはいたけど、あまり頭に入ってこなかった。

「春香は?結局あれから飲んだの?」

「うん、そしたら火ついちゃって、夜の10時くらいまで飲んでたわ」

こやつの身体も、火をつけたら燃えそうだ。アルコールで。「店長にメールした?謝罪の」

「したわよ。あの人もあんまり覚えてないらしい」

「あそ」タクシーで爆睡していたから、無理もない。

「じゃあ、本日も張り切って行きましょう」春香が言い、「おー」わたしが応える。
このやり取りは、いつからか2人の日課になっている。こうなった経緯は覚えていないが、やらないと気持ち悪さを覚えるくらい、染みついてしまっている。実際は、張り切ってとは程遠いテンションだが。

でも、今日はそんな日課も無意味に終わりそうだ。19時に2組のカップルが来店して以来、ピタりと客足が途絶えた。外の人通りはいつもと変わらないが、今日は嫌われてしまったらしい。

「今日はもう終わりね」10時を回ったところで、春香がぼやいた。

「もうとっくに諦めてるよ」わたしが顎で指した人物は、厨房の中で堂々と煙を堪能している。店長はああ見えて、仕事中は一切たばこを吸わない。それは、客が途絶えた合間にもだ。
つまりは、本日は営業終了という合図でもある。

「もう、誰も来ないよね」決まったお言葉だが、わたし達は決して返事をしない。同意すると、喜ぶのは店長だから。

「10時半まで待ってみましょう」春香が言うと、店長はあからさまに嫌な顔をした。

「うーん、わかった」どっちが店長だかわかりやしない。














































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