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「前に言ってたな、奴らが人間を襲うところを見た事がないと」
「・・・はい。子供の時、友達に怪我をさせた以外はないです」
「気持ちはわかる。自分に疑問を持っただろう。誰も理解してくれない。だったら、見ないフリをするのが1番だと」
瀬野さんの言葉は、わたしそのものだった。わたしはそうやって生きてきた。そうするのが1番だと思った。
「だが、実際に人に危害を加えている奴が存在する。それは、奴らが見える俺達にしか防げない。そう思わないか?」
それはまるで、子供を諭すかのような言い方だった。わたしは怒られた子供のように、顔を上げられなかった。
「・・・なんで、わたし達にしか見えないんですしょう」
「そうね、それは、あたしにも答える事が出来ないわ。ある人が言うには、"キミ達は特別な力を持って生まれてきた"って」
「特別な、力・・・」一体、何が特別なんだろうか。こんな特別なら、わたしは要らない、そう思った。
「雪音ちゃん、お仕事はいつも何時に終わるの?」
「えっ?と、11時前後です」
「・・・夜の?」
「はい、飲食店で働いてるので」
「あら、そうなのね。お休みは?」
「今日・・・月曜日だけです」
「なるほど。瀬野、財前(ざいぜん)さんはいつ戻るっけ?」
「明日の夜って言ってなかったか」
「ちょうどいいわね・・・雪音ちゃん、明日の仕事終わり、予定ある?」
「ないです」即答すぎるのもどうかと思ったが、事実だ。
「ちょっと付き合ってくれるかしら?会わせたい人がいるんだけど」
「・・・え、いや、でも、終わるのだいぶ遅いんですけど」
「それは問題ないの、あの人、時間は関係ないから。もちろん、帰りはちゃんと送ってくわよ」
帰りの事より、時間は関係ないのほうが気になったが、あえて聞かない事にした。「わかりました。何処に行けばいいですか?」
「迎えに行くから、お店の住所メールしといて」
「・・・や、場所言って貰えれば、わたし行きますよ」
「めっ!そんな遅い時間に女の子が1人で歩いちゃいけません!」
── めっ!って。わたしは赤ん坊か。「いや、さすがに申し訳ないし、遠いならタクシーで行くので大丈夫です」
オネエは呆れ顔でため息を吐いた。「しっかり者も困りもんね。お兄さんの言う事は黙って聞きなさい」
「お姉さんだろ」
「お黙りっ!」
「中条、どうせ行くんだから黙って聞いとけ。明日の11過ぎだな。俺もそのくらいに向かう」