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「あなた、笑顔が素敵だから、もっと笑ったほうがいいわよ」
「・・・え」そんなこと、生まれて初めて言われた。そう言われると、笑えなくなるあまのじゃくだ。顔が引きつる。
今度はオネエが笑い出した。「あなた、ホント可愛いわね」
「セクハラか?」
「なんでよ!」
──さっきまでの緊張が、徐々に和らいでいくのを感じた。
到着したアイスコーヒーに手をつけるのを待って、瀬野さんが切り出した。
「中条、この前以来、見てないか?」
ああ、中条ってわたしだった。なんの事かは、わかる。「はい、見てないです」
「そうか」オネエと目を合わせる。「最近は俺らも見かけないな。夏場は活発になりがちなんだが」
「そうね、この前の一つ目も久しぶりに見たもの」
「1番最初に見たのはいつだ?」
「えっと、小学生の時です。小学1年生」
「場所は?」
「その時住んでた近所の公園です」
「見た目は」
あの時の記憶は、今でも鮮明に覚えている。それほど、わたしの中で大きな出来事だった。「子供で・・・背が小さくて、耳が生えてて、赤い着物を着てました」
オネエと瀬野さんがまた目を合わせる。「化け猫の一種ね」
「そうだな」
「雪音ちゃん、その時誰か一緒にいた?」
「・・・母親です。その時はまだ子供だったから、何がなんだかわからなくて、普通にお母さんに説明してましたね」今思えば、バカだったなと、笑えてくる。
「そりゃそうよね。明らかに普通じゃない子が見えたら、説明したくもなるわよ」
誰かに共感されることなんて初めてで、その優しい言い方に胸が締め付けられた。
「そいつを見たのはそれが最後か?」
「あ、いえ、そのあと2回、同じ公園で見ました。どっちも逃げられたけど・・・」
「逃げられた?」瀬野さんは怪訝な顔をしている。
「その子、一緒に遊んでた友達を怪我させたんです。だから見つけた時、思わず追いかけて捕まえて。問い詰めたら、その子の爪が伸びて・・・」
「怪我はしなかったの?」
「襲いかかってきたけど、ギリギリのところで避けました」思い出すと、今でも悔やまれる。
「勇敢というか・・・怖いもの知らずね」
「その時は無我夢中で、身体が勝手に動いてました」