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「お休みの日に呼び出してごめんなさいね」
「いえ、わたしこそすみません。昨日遅くまで飲んでて、メールに気づかなくて」
「いいのよ、あたしの取り越し苦労だったみたいね」
「それで、さっそく本題に入るが・・・」
「ちょっと!さっそくすぎるわよ!こんなに汗だくになって走って来てくれたんだから、もうちょっと休ませてあげましょ」瀬野さんは無表情で黙り込んだ。
「あの、わたしは大丈夫です」
「ごめんなさいね、せっかち太郎で。飲み物は何がいい?」
「あ、アイスコーヒーで」オネエが店員さんを呼んで注文している間も、瀬野さんは静かにコーヒーをすすっていた。
「それにしても」と言いかけて、オネエは腕時計を見た。「ずいぶん早いわね。あそこからここまで走って来たんでしょ?」前回送ってもらったから、家は知られている。
「はい、体力には自信があるんで」
「そんなレベルの話じゃないと思うけど。陸上部?」
「帰宅部です。足は速かったけど、走るのは別に好きじゃないんで」
少し間があった。「ふふ、スカウトされたんじゃない?」
「あー・・・ありましたね。1個上の先輩がしつこくて、一時期不登校になりかけました」
オネエはハハッと笑った。横顔を見て思った。なんというか、綺麗に笑う人だ。
「あなた、やっぱり面白いわ」──やっぱり?「面白いけど・・・アンタはなんでさっきから何も喋んないのよ!」オネエがテーブルをペシッと叩いた。
「お前が休ませろって言ったんだろ。その割によく喋ってたけどな」
「コミュニケーションでしょ!会話よ会話!アンタは極端すぎるのよ!」
「じゃあ、なんの話をすればいい」
「会議じゃないんだから、議題を決めて話せって?まったく、今時AIのほうがアンタより愛想あるわよ」
「ぷっ」抑えきれず、噴き出してしまった。「ごめんなさい、でも面白すぎて・・・アハハハ」
「笑われてるぞ、お前」
「アンタもでしょ!」
この2人のやり取りを見てると、無性に笑えてくる。やっぱり好きだ、この空気感。