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わかってる。さっきからずっと、電話が鳴っているのは。わかってるんだけど、出たくない。
もう少し、寝させてくれ。

── 音が鳴り止む。ごめんなさい。おやすみ。

── アヒルが鳴き出す。不愉快だ。なんでこの着信音にしたんだ、わたし。
もういいって、鳴き止んでくれ。

今度は一向に鳴り止まない。「ああもうっ!」寝返りを打って枕元の携帯を探した。
あれ、無い。音を頼りに床に落ちている携帯に手を伸ばす。

画面の文字は、春香。やっぱりか。

「もしもし」

「・・・まだ寝てたわけ?もう昼だけど」

「えっ」時計を確認すると、11時58分─。「寝過ぎた・・・春香が何回も電話よこさなきゃ、あと2時間は寝てたけど」

「は?今初めてしたんだけど」

「えっ、そーなの?」じゃあ、最初の着信は誰だろう。

「あたし昨日何時に帰った?まったく記憶がないんだけど」

「・・・知ってる。タクシーに乗ったのが1時過ぎだったかな。2軒目行くって騒ぎ出すから店長と止めるの大変だった」大変を強調しておく。

「全然覚えてないわ・・・あと、おでこが若干腫れてるんだけど、あたし転んだりした?」

「えっ!・・・いや、あー・・・だいぶ酔ってたし、トイレに行く時にでもぶつけたんじゃない?」ごめん、春香。本当はタクシーに押し込んだ時、思いきりぶつけたんだけど。言わぬが花だ。

「他には?何かやらかしてない?」

春香がこんなふうに聞いてくるのは、珍しい。それだけ飲んだという自覚があるんだろう。

「や、とくには。タクシーの中で店長のことビシバシ叩いて、窓から天然記念物って騒いでたくらい?」

「あちゃー・・・店長にメールしとかないと」

春香が外に向かって何度も天然記念物を連呼するから、タクシーのおじさんがキョロキョロしていたのを思い出して笑みが出た。

「じゃあわたしは、2度寝に入るから」

「また寝るわけ!?夜寝れなくなるわよ」

「それが狙い。今日は海外ドラマナイトだから」

「あそ、アタシも昼酒するわ、休みだし」

「まだ飲むか!二日酔いじゃないの?」

「なんで?寝たらリセットでしょ普通」

絶対、普通ではない。恐るべし、大原 春香。






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