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第二十七話 裏切りのジョーカー

 階段を下ってゆくシャルルとエミリーと会話をする。真っ黒な空間の中、階段だけがはっきりと視認できる。

「なんだか用意周到ですね」
『だからこそ幹部に成り上がれたんだろう。情報への執念には感心する』
「ここまで来たら第五階層まで行く必要があるかもしれませんね。心理潜航の才能はないはずですから、そこまで行けば本性がわかるかと」
『そうねえ〜。それしか方法無さそう。まあ第四階層でも情報集められるなら集めたいところだけれど』

 階段を降り切るとあった空間は無機質な黒で覆われた空間だった。空調の音だけが響いている。

「ここは?」
「恐らくチーム・カルカロットの本拠地かと。……誰もいないですか? 先輩方」
『気配は感じないが調査しないことには始まらない。カルカロットのアジトのデータは確か無いよな』
「データにはありませんね。お気をつけて。深層心理に近づいてはいますが、まだ安心は出来ませんから」

 二人が探索を始める。マッピングしながら一部屋ずつ見て回ってゆく。その途中ある一室に入ると誰かの執務室らしき部屋だった。

「本当に誰もいないね」
「故意に消している可能性がある。すごいな……スフィアダイブの適正も無いのに第四階層まで操れるなんて……」
「そんなにすごいことなんだ」
「こちらからの接触で意識を覚醒させることは出来ても、干渉が無ければ本能に従う場合がほとんどなんだ。適正があるヒトでも難しい場合がある」

 執務室を捜索している二人を見ながらヒューノバーと会話をする。二人してシャルルとエミリーの捜索を眺めているだけではあるが、緊張感は常にあった。
 執務室の上の書類から、部屋の主は幹部のひとりだと判明した。

『ここにトラップが無いってことは全くこの幹部と関係性が無い。又は流石にヒトを消すことだけに精神を使っているかのどちらかだな』
「まあヒト消したところで出会っても反応するか疑問ですけど」
『まあねえ。本人じゃなく本人が想像している人物像になるだろうし、情報吐かせることは可能だから後者が強いかもしれないね〜』

 潜航対象者本人の意識外での行動はあまり多くは出来ない場合が多いそうだが、それでも口を割る場合もあるらしくそれを警戒しているのだろうとのことだ。

 あらかた執務室を調べ、下層への階段か、別の部屋に情報がないか調べることになる。別の執務室も見つけ荒らしたりしたが目ぼしいものは見当たらない。
 下層への階段を見つけ、このまま降りてしまうかどうか話し合う。

『このアジト内にまだ情報が眠っている可能性はあるが、故意に人物を消していることを考えると情報を得られる可能性は低いだろう』
「この中にリンダ本人は居ないんでしょうか」
『どこかに隠れているか、姿を消して見張っているかだろうね〜。私とシャルルの会話は筒抜けかも』
「流石に最深部の第五階層では操るのは難しいんですよね?」
『降りてしまうのに一票だな』
『わたしも賛成〜』
「じゃあ降りましょうか。なんだったら後から登って探すのもアリでしょう」

 一旦第五階層に向かうことに決め、シャルルとエミリーは階段を降り始めた。
 冷え切ったコーヒーを口に運び、三人の会話に耳を傾けた。

「それにしても、同傘下とは言えほぼ敵対しているチームに武器類の横流しをして得られるものはあるんでしょうか」
『情報で成り上がった女だ。得られるものは情報だと思う』
『誰かの弱みか、はたまた別組織の情報か。想像できるのはそれくらいね〜』

 データを見てみる。対抗している別組織は複数の傘下を持つ同規模のマフィアグループがある。自組織の大元のマフィアグループとは拮抗状態らしく大きな争いは今のところ起こってはいない。
 傘下のチーム・ゼパルは他傘下の他のチームと諍い、殺傷事件が数件起こっているようだ。その中で大きいものだと他傘下のリーダー的立ち位置の人物がひとり負傷したようだ。

「なんか、情報で成り上がりって言うのなら、自分がリーダーになることを望んでたりするんですかね。あわよくばリーダーが抗争に巻き込まれないか。とか」
『考え難いと思うよ〜。あれはリーダーをサポートすることによって一番輝くヒトだからね。情報参謀がしゃしゃっても意味ないくらい分かってると思うよ』

 人望はあるらしいが、幹部勢での派閥なども存在しているようだ。リーダーが死ねばその派閥で次期リーダー決めの争いが起こるだろう。それを考えると確かに考え難いことかと納得する。

『人心掌握は得意ではあったそうだから、可能性が低いだけでゼロでは無いとは思う』
「情報を得るには信頼を勝ち取ること、ですか」

 とすると……と考えようとした時、第五階層に着いたらしい。廃工場の中ようだ。どこかから声が聞こえてくる。シャルルとエミリーが物陰に潜みながら声の方へと向かってゆく。視認できる場所までくると身を潜めながら会話を聞く。

『今回の契約、反故にせぬようお願いしますよ』

 リンダの声だ。流石に第五階層までは操作は不可能だったらしい。声は二つ聞こえてくる。男の声だ。

『あんたから秘密裏に借りた部下は本当に使い捨ててもいいんだな?』
『ええ、だって彼は私が最も嫌う約束を反故にしたんですもの。鉄砲玉くらいにして使い捨てます』
『武器を流してくれるのは感謝するが、ふ、ゼパルリーダーの暗殺ねえ。うちのチームはあんたには恩があるからねえ。リーダーに推す声は多いと思うよ』
『だと嬉しいですね。今現在のゼパルはカルカロットと敵対関係にある。私が後釜に座れば、それは無くなり協力関係を結べます。出来れば、そのうち統合を考えています』
『ふうん、おっかないねえ。カルカロットの女ってだけだと最初は思ってたけど、ここまで成り上がるとは思ってなかったよ』

 ゼパルリーダーの暗殺。それが武器を横流しした理由だったらしい。部下に始末させる。それも秘密裏、自分とは関係が無いと思われている部下に。他チームのリーダーの負傷というのは小さな紛争を起こすことで狙いを隠れ蓑のように隠すためだったのだろう。

 そう簡単に別組織のヒトをリーダー格に据えることは可能なのだろうか。いや、恩がある。と言っているあたり、武器やその他諸々色々手回しをしていたのだろう。

 リーダーになりさえすれば、界隈の情報は山ほど入ってくるだろう。リーダーの暗殺と言っても他チームのリーダーというのが真実だったらしい。

「情報の裏付けは取れたましたね。一旦上に上がりましょう」
『りょーかい。シャルル上がろう』

 シャルルとエミリーはその場を離れて元あった階段へと向かう。階段を登って行きながら、今回どうしてリンダは捕まったのかと問うてみた。

『どっかから情報が漏れて警察が突入。多分だけど、鉄砲玉にしようとしてたやつが察したんじゃない? 結局約束を破ったやつが一番頭がキレていたか、それとも自分も捕まることを分からなかった馬鹿と紙一重の鉄砲玉くんがミラクルで知っちゃったかかな〜』
『運が良いんだか悪いんだか』
『まあこれで計画の裏は取れたし、まさか使い捨てしようとしていたやつがジョーカーだったとはね〜』

 第四階層に上がると、フロアは未だ人気がない。リンダ自身の防衛行動だろうが、裏付けを取れた今意味もない。

「一旦リンダの部屋を探してみますか? それとももう上がりますか?」
『うーん、情報残してるとも考え難いな。上がるかエミリー』
『だね。じゃあ』
『あなたたち、見てしまったのね……』
「!」

 二人の後ろにリンダがくゆる煙のように揺らぎながら形を表した。手には銃を構えている。

「二人とも今すぐ上がってください!」
『このっ、スフィアダイバー風情がああ!』
「先輩!」

 乾いた発砲音と共に映像が突然途切れた。無事かどうか確認しなければ! と潜航室へと向かう。

「メアリーさん! シャルルさん!」

 呼びかけるが反応がない。まさか精神の方に傷を負って、体にも影響が……。
 焦ってエミリーを揺り動かしていると、ヒューノバーが落ち着いて。と私を制した。

「恐らく大丈夫。目覚めるのには少し時間がかるから、落ち着いて、ミツミ」
「……ううん。急に上がったから酔ったかも……」
「あー……危なかったなあ」
「お、お二人とも、大丈夫ですか!?」

 目覚めた二人に声をかけると、大丈夫だと返ってきて心底安心した。肝が冷えた。

「まさか銃持ち出してくるとは、マフィアだなあ〜」
「ま、この人はそのうち係官が来るから置いといて、調書書くか〜」
「の、呑気……命の危機だったと言うのに……」
「密林に放り出された時よかましだよ〜」

 そういえばそうだった。と一気に冷静になる。そんな場面に遭遇したヒトならば、あれくらい落ち着いて対処出来るはずだ。

「ま、心配ありがとうね。ささ、班室戻ろうよ」
「あ、えと、お疲れ様でした」
「はいお疲れ。初めてのサポートどうだった?」
「……私もナイフ向けられたことはありましたけど、見てるだけってのもはらはらしますね……」
「そう言うもんよ。じゃ、行こ〜」
「行こうミツミ」
「……うん、ヒューノバー」

 ヒューノバーに背を押されて部屋を出ようとした時、一瞬リンダを見た。マフィア、犯罪組織の人間ではあるが、彼女なりの信条などあったのだろう。約束。それに囚われ裏切られたヒト。もう関わることもないだろうが、なんとなく同情するところもあるなと思った。
 その後班室に戻って調書作成に付き合うことになった。何度やっても難しいよ〜。

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