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親友に愚痴る

 黄色にピンクと春の薔薇は彩り華やかで|香《かぐわ》しい。

 アデルはキャラハン伯爵家の豪華な庭に、友人であるレイチェル・ワイズ伯爵令嬢を招いて、午後のお茶を楽しんでいた。
 ワイズ伯爵家は地味ながらも堅実な領地経営で安定しており、レイチェルと婚約者との仲も良好。
 アデルにとっては羨ましい限りだ。
 ガゼボに向かい合って座る金髪に緑の瞳を持つ令嬢、レイチェルは気づかわしげな様子で言う。

「ねぇ、アデル。大丈夫なの? エミール・カルローニ伯爵令息といえば、美しいけれどちょっと……でお馴染みの令息でしょ?」

 既に結婚式の日取りまで決まっている幸せ真っただ中の友人は、本気でアデルを心配しているようだ。

「ええそうよ。エミールさまは、性格がちょっと……でお馴染みの、美形ナンバーワン令息よ」

 アデルは上を向いて目をグルリと回すと、うんざりした様子で言った。

「あの方、ちょっと前に……というか、最近ね。男爵令嬢であるイングリッド・ウェントワース嬢と、問題を起こしたばかりでしょう?」
「そうなのよ」

 ピンク色の髪をした赤い瞳の可愛らしいくも巨乳で色っぽいウェントワース男爵令嬢は、野心家の令嬢として社交界では有名である。
 数々の令息を誘惑して回り、あらゆるタイプの令嬢の怒りを買った令嬢は、ある令息に狙いを定めた。
 その相手というのが、アデルの婚約者となったエミールだ。
 令嬢たちはホッと胸をなでおろしたが、振られた形になった令息たちの怒りもまた凄まじく。
 ……まぁ色々と揉めに揉めたのだ。

「カルローニ伯爵家と言えば、爵位は伯爵でも商会を手広くやっていてお金持ちですものね。そりゃ狙われるわけだ」

 レイチェルは大きな目をグリンと回しておどけてみせた。
 色白でちょっとふくよかな令嬢であるレイチェルは、お茶目で明るい人である。
 アデルのお気に入りの友人だ。

「男爵令嬢除けの婚約か。災難ね」
「ん。本当に」

 レイチェルの言葉にアデルはうなずく。
 紅茶のよい香りと薔薇の香りが混ざり合い、そこに甘い香りが加わっていくさまは春らしくて心地よい。

「キャラハン伯爵家とカルローニ伯爵家の縁組なら家格も合うし、経済的にも釣り合いが取れているけれど。……そうなると。私が、この庭に招かれるのもあと僅かということかしら?」
「どうかしらね」

 正直、アデル自身にも分からない。
 婚約はしたが、結婚については未定である。
 だが、婚約は成立してしまった。
 このままならいずれ近いうちに、エミールとアデルは結婚することになるだろう。
 
「それでいいの?」
「よくはないわね」

 レイチェルの危惧に、アデルは眉根を寄せて見せた。
 結婚するにしても、相手がエミールでは、暗い未来しか見えない。

「どうにかならないのかしら?」
「今のところは……受け入れるしかないわ」

 眉間にしわを寄せてうつむき何か考えていた様子のレイチェルが、パッと顔を上げてると、いかにも良いことを思いついたという様子で言う。

「ねぇ? 貴女、同級生のオスカー・クレマン子爵令息と仲が良かったじゃない?」
「ええ」
「彼って、まだ婚約していないでしょ? 彼ならどうかしら。オスカーさまなら頭も良くて物事をスマートにこなす有能さもあるし、茶色の髪と瞳で地味ではあるけど、整った容姿でお似合いだと思うけど」
「んー……」

 アデルは同級生の姿を思い浮かべてみた。
 オスカーであれば、あの長い脚でもマイペースで歩いていくことなく、アデルに合わせてキチンとエスコートしてくれることだろう。

「でも、彼は次男だから家を出なくてはいけないわ。爵位を持てる予定もないはずよ」
「あら。それは厳しいわね」

 レイチェルとアデルは二人で仲良くスコーンに手を伸ばし、2つに割ると無言でイチゴジャムとクロテッドクリームを塗り、上品に開けた口の中に放り込んだ。

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