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第12話 地下の、妖怪たち──

 運転手の人が下りると、ドアを開けてくれた。

「ここ、大学病院だよね」

「一般の病院とはエリアがわかれていて、専門の医師が担当していますわ。表には、全く知られていません」

 そうなんだ──。
 そして私たちは受付で身分を証明。ミトラが妖怪省のキーカードを受付の人に渡した瞬間、その人が、何かを察した表情になる。

「ああ、妖怪省の方ですね。あちらの階段を下に行ってください」

「はい」

 指示通り薄暗い階段を下る。階段を2階分ほど下ると、厳重そうな扉があった。
 扉の隣には液晶の操作パネル。

 ミトラがパネルに自分のカードをかざすと、パネルが青く点滅する。そして、扉から「ガチャリ」といった感じの音が聞こえた。

「妖怪省の管轄エリアですわ。一般人は、入れません」

 そう言ってミトラは扉を押して開けた。

 中は、薄暗くて人気が感じられない廊下だった。
 少し歩いてからミトラが突き当たりの道を右に進む。

 どこか、
 元気がない表情になり話しかけてきた。
「秘密裏にとらえた妖怪なのですが──」

「何かあったの?」

「あまりにショッキングな姿をしていて、特別に許可がある人にしか見せてはいけないことのなっています。よろしいですか?」

 つまり、相当グロい妖怪がいるってことかな。どんなものが待っているのだろうか。
 覚悟を決めて、コクリとうなづく。

「わかった」


 さっきと比べて、埃っぽくて薄汚れている。白々と蛍光灯に照らされた、無機質な廊下。
 あまり手入れがなされていないというのが、なんとなくわかる。

 まるで、ドラマで見た刑務所のような扉だ。
 猛獣でも飼っているかのように鋼鉄で出来ていて、中央にはのぞき窓のような穴がある。

「あの覗き穴から、見ればわかりますわ。ただ、あまり刺激しないように、そっと見てあげて下さい」

「わかった」

 そして私は、恐る恐るゆっくりとのそき穴から中を見る。

「葉っぱ……」

 視界に入ったものの第一印象は、大きな葉っぱの塊。何かうにょうにょ動いている。確かに不気味だけど、さっきまでいた妖怪だって十分不気味だった。

 あれと比較して、そこまでおかしいものなのだろうか──。
 頭に疑問を抱きながらじっとその姿を見ていた。

 数十秒ほど凝視した後、正体を理解する。

 その姿に、ぎょっとした。

 まるで葉っぱであるかのように肌が緑色で、よろよろと体を揺らしながらうずくまって一歩一歩後ろに歩いている。

 口が大開きになっていて文字をひたすら床に書いている。文字は──。


 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて。

 怖気が走った。何か、訴えかけているのだろうか。


 すると、その妖怪は私たちの存在に気が付いて私と目が合う。
 目が合うなり、手を伸ばして膝立ちのままゆっくりとこっちへ近づいてきた。
 まるで、何かを訴えようとしているかの表情で。

 じっと見ていると、ミトラが廊下の先へ踏み出してシャツを引っ張る。

「ここにいる妖怪たちは、まるで人間たちを求めているかのようなふるまいをしますの。あまり見ない方がいいですわ。行きますの」

「確かに」

 私は、一度妖怪に視線を配った後、ミトラに引っ張られる形で廊下の先へ。それからも、私は同じ世界にいる物とは思えない奇妙な妖怪たちと出会った。

 次にのぞき窓から見た妖怪。

 パッと見では、四つん這いになっている人がいた。
 ゆっくりとした動きで、赤ちゃんのようによちよちと歩いている。あうあうあ──とでも言いたげに口をかくと動かしている。

 変な動きをしているけれど、さっきよりはまだ人間に見えている分まともだ。
 しかし、何か違和感がある。ぱっと見ではなく、隅々まで良く凝らしてみてみる。

 そのせいで、気付いてしまった。とてもおぞましいその姿に。

 人間の身体だと思っていたのは小さな虫の集合体だった。
 大きな芋虫のような虫がうにょうにょと動きながら、体をなしている。
 私も、動揺していてどう言葉に表せばいいか戸惑ってしまっている。なんていうか──身体が、虫で出来ているのだ。小学校で習った『スイミー』とかいう小さな魚が固まって大きな魚に見せかけるというのがあったが、これはそれに近い。

 数えきれないくらいの虫たちが集まって、人間の形をしているのだ。
 動きも誰かが勝手な行動をするようなことは全くせず、全ての虫が規則的に動いている。

 動きながら、床の上を音も発せずに動いているのだ。
 苦手な人なら、意味が分かった時点で卒倒してしまいそうだ。

 さらに、次。

 次は、見た目ですぐにわかった。

「なんて言うか、色々とおかしくなりそう……。それくらい、異様なものを当たり前のように視界に入れている」

 簡単に言うと、身体が水色に透き通っているのだ。まるで、ところてんや寒天を着色かのような体のつくり。
 全身がスライムで出来ているかのようなところてん状の身体で、床の上を芋虫のように這いずりまわっている。

 大きく口を開けながらよだれを垂らして這いずりまわってるせいか、床のあちこちによだれが水たまりのように垂れていた。妖怪になる前の私だったら、あまりの恐怖に気を失っていただろう。

「もう行こう。気持ち悪くなってきた」

「私も、あまり見たいものではありませんわ」

 ミトラの表情が、やはり引き攣っている。まあ、こんなところもあるっていうことが理解できた。私が今まで生きてきた世界とは、まるで違うようなもの。
 それだけでも収穫──なのかな?

 そして私たちは薄暗い道を行く。

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