298 宮殿にて
先の尖った半球状の、5つの大きな真っ白い丸屋根の外観、青と黄色のステンドグラスが反射する、天井の丸屋根の内観。
かつて、街中に突如出現したワイルドグリフィンを撃退し、ウテナ、フィオナ、またフェンキャラバンサロンを中心に、護衛隊と共に論功行賞が盛大に行われた、宮殿内。
さまざまな彩飾が施された壁を通り過ぎ、らせん階段を上った先、2階にある、少人数用の一室。
宮殿の中では一番小規模で、中央に大理石でつくられた丸い形のテーブルと、木でできたイスが置かれているのみという、こじんまりとした簡素な部屋だった。
そこで、公爵のアブドとムスタファの2人が、向かい合って座っていた。
丸テーブルの上には、たくさんの書類が積まれていた。国内の情勢をはじめ、公爵のみが知る機密情報まで掲載されている。
「国内の治安に関しては、問題なく保てているようだな。情報操作もうまくいっているようだ」
ムスタファが、書簡を手にとって、それに目を落としながら言った。
「ああ。……ふぁ~」
アブドが返事すると同時に、あくびした。
「おい、アブド。真面目にやらんか」
「やってるだろう。俺が真面目じゃないんじゃなくて、ムスタファが真面目すぎるのだ」
いま、アブドとムスタファが行っている作業は、書類に目を通して、まとめて、後にそれを他の公爵達の前で発表するための、準備作業だった。
アブドもムスタファも中年ではあるものの、公爵の中では若い方だった。
そのため、公爵内における、ありとあらゆる雑務に関して、アブドやムスタファなど、若い公爵が引き受けることが多かった。
「やれやれ。公爵といっても、若い俺たちは立場ないね。こうやって、雑務に身を投じる以外、ないのだからな」
「愚痴を言っている暇があるなら、目を動かせ」
「目?手じゃなくて?」
「目も手も、どっちもだ」
アブドとムスタファは、若い頃からの知り合いだった。
その関係は、つかず離れずといったもので、仲がいい訳でもなく、悪い訳でもないといったものだ。
だが、お互い意識し合っていて、尊敬できるところは尊敬し合うなど、特別な存在同士でもあった。
「まったく、他の公爵達が気にしてることなんて、2つや3つくらいしかないんだから、それだけまとめて、効率よくやれば、いいじゃないか」
「いいや」
アブドの主張に、ムスタファは反論した。
「この書類は、メロの国内の随所で、諜報員たちが入手してきてくれた情報だ。情報は、新鮮であるうちは、見方によっては宝よりも大事な財産なのだ」
「あはは、いやぁ、ご立派、ご立派。……で、」
少し間を置いて、アブドがムスタファに聞いた。
「ジンの、情報は?」