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2.自分のやってきたことを信じるのよミリア。

「私の産んだ息子を好きなように洗脳しなさい。12歳で皇帝に即位させれば、長期政権になる。お父様のしたいことができるでしょ」

姉はもう一度、父に自分の子供を自由に利用するように言っていた。

まだ産まれてもいない彼女の子供はなんと不幸なのだろうか。

産まれた瞬間から、皇帝になる運命しか人生の選択肢がないだけではない。

結婚相手も、その思想も全てをコントロールされる。
このような馬鹿げた計画がまかり通って良いわけがない。

「スコット皇子を公爵家の養子として迎えよう、しかし、ミリアが娘を産む保証などないぞ」

私は父の言葉に一瞬世界が反転したような感覚を覚えた。

信じられないことに父は娘のワガママのために私のことだけではなく、まだ見ぬ孫まで利用しようとしている。

まともに後継者教育も受けていなければ、公爵家の裏の仕事もしらないスコット皇子にこの家を任せられるわけもない。
私がどれだけのものを犠牲にして公爵になるために尽くしてきたことか。

アカデミーで一番の成績をとらなければならない重圧に苦しんだ日。

父の裏の姿を知ってショックを受けながらも、公爵になるために受け入れた日。
苦労の日々を思い出したら人前だというのに頬に熱いものがつたうのが分かった。

「ミリアは仕事人間だから女しか産めないの。仕事とかでストレスを溜めると男の子の遺伝子を殺してしまうらしいのよ」

姉が言う言葉が遠くに聞こえる。
私は女しか産めないらしい、子など女など男でもどちらでも良い。
もし私が子を産むとしたら、私の子にはこんな理不尽で苦しむ思いはさせたくない。

「お願いします。どうか、私に仕事をさせてください。」

仕事は確かにストレスを感じることが多かった。
しかし、私にとっては生き甲斐でもあったのだ。

ずっと努力してきたのに、今更、子を産み夫を支える貴族の夫人になりたくない。
私は跪いて父に縋った。

「愛する人を支えるのが女の仕事よ。あなたは幼くて自分のことばかり考えてしまうのね」

涙で滲んだ先に得意げに私に説教する姉と、それをうっとり見る未来の皇帝陛下であるラキアス皇子がみえた。

こんなバカ男が帝国の最高位につき、多くの帝国民の運命を握るのだ。

その横には自分のことしか考えない私の姉が誰より価値のある女として寄り添う。
とてつもないホラー展開だが、私はこの展開を受け入れる以外の選択肢がなかった。

「もう、部屋に戻りなさい。帝国貴族として人前で泣くなんて恥を知りなさい」
姉に強く言われ、私は自分の無力さに打ちひしがれながら枕に顔を埋め一晩中泣き続けた。

「逃げよう。もう、こんなところにはいられないわ。公爵になれないなら、サイラスと一緒になれる」

私が一晩泣いて出した答えだった。
サイラスは子爵令息だ。

私が公爵になるとしても、身分の差で一緒になることが難しいのは明らかだった。

「サイラスなら、何もかも捨てて私と逃げてくれる。私と彼なら別に身分なんかなくたってやっていけるわ」
私は手元の荷物と宝飾品を纏めて家を飛び出す準備を始めた。

「なんだか、楽しくなってきた。公爵になることに何で縛られてたんだろう。培ってきた知識を元に商売でもして、愛する人と暮らせるなら一番良いじゃない」

私は何とか自分を前に向かそうとした。

公爵になると決めたのは、自分の価値を証明したかったからだ。

女性初めての公爵というのが私の価値を証明するには十分だと思った。
それくらいのものがないと、赤い瞳に生まれた私はずっと姉の陰で生きていかなければならなかった。

「愛する人と一緒になる。それが、一番の幸せよ。私ならどこでも暮らせる。自分のやってきたことを信じるのよミリア」

私は纏めた荷物をきつく抱きしめながら、公爵邸に別れを告げる決意をした。

「お嬢様、アーデン侯爵がおみえです」
扉をノックする音とともにメイドが客人の来訪を知らせて来る。

私は慌てて自分の纏めた荷物を隠した。
メイドが私の顔を見てギョッとしている。

一晩中泣いていたので目も開かないくらい腫れている。
人に会う顔ではない。

でも、サイラスならこんな私のことも受け止めてくれる。
私たちは弱さも見せ合いながら助け合ってきたのだ。

「お約束もしていないのに、失礼でしょ。お会いできないとお伝えして」
私はメイドに指示をした。

「お約束はされています」
メイドの言葉に絶望した。

おそらく父か姉が手を回して、彼と私を今日引き合わせるのだろう。
そして、私の意思など関係なく彼と私の婚約は成立する。

「具合が悪いと言っても無理そうね。いいわ、すぐ支度して」
今日の私はとびきりブスだ。

明らかに目が開かないくらい晴れているし、肌ツヤも徹夜で泣いていたから良くない。
化粧で綺麗にみせる範疇を超えてボロボロだ。

帝国で一番の王子のようなルックスをしたモテ男だ。
美しく着飾った手入れの行き届いた女ばかりを見てきたに違いない。
きっと、いくら公爵に請われたところで、こんなブスな女は嫌だと言ってくれる。

煌びやかなドレスに着替えさせられる。
ドレスが豪華な分、ブスが際立ってナイスなチョイスだ。

「こんなボロボロの私じゃ、アーデン侯爵が逃げ出さないか心配だわ」
私はほくそ笑みながら呟いた。

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