278 ムハド商隊、出立①
一夜が明けた。
朝、砂漠の手前にある、舗装された大通りに集合した、メロ共和国へと向かうキャラバン達と、ラクダ達。
「うん、やっぱり多いね」
「ああ、そうだな」
マナトの横にいたミトとラクトが、周りを見渡しながら話している。多少、緊張気味なようだ。
交易へと向かうキャラバンの人数は、20人。加えて、岩石の村の者達。
ラクダ達は、交易のための50体と、自分達の荷物を持たせる役目、また、岩石の村からの美術品を背負っているのぜんぶ合わせて、約60頭にもなる。
これまでの、ミト、ラクト、マナトの交易の中で、一番、規模が大きい。
また、他にも、多くの村人達が見送りに来てくれていて、賑やかな雰囲気に包まれていた。
「……んっ?」
マナトはラクダの中に混じっている、一体の馬が目に入った。
「馬車用かな?一体しかいないけど」
「さぁ?」
「ムハドさんの隊は、最低一体、馬を連れていくことになってるんだ」
ケントがマナト達のもとへやって来た。
「あっ、ケントさん」
「よう、お前ら」
するとケントは、小さな声で、口に手をあてながら、3人に言った。
「ちなみに、お前ら、今日が出発日になったの、いつ知った?」
「あぁ、それなら、岩石の村の護衛達が運び込まれたときに、長老が言ってましたよ」
ラクトが答えた。
「マジか……」
「どうしたんですか?」
「い、いや!なんでもねえ。……くっそ、マジかぁ」
ケントは頭をかきながら、隊長陣の集まっているところへ混じっていった。
その中心には、ムハドと長老がいて、何やら隊長陣に通達している。
「とうとう、ムハドさんと一緒に交易するのか……」
「うん、そうだね……」
……嬉しさ半分、プレッシャー半分といった感じかな?
ラクトとミトを見ながら、マナトは思った。
――ザッ、ザッ、ザッ……。
「……んっ?」
足音がして、マナトは村の方面を見た。
サーシャを先頭に、岩石の村の者達が、やって来た。
サーシャをはじめ、シュミット、ニナ、召し使いの4人は、キャラバン達もよく利用しているマントを羽織っている。
その後ろからは、護衛達がついて歩いてきていた。
「あっ!護衛達、もう傷が直ったのかな。結構な人数がメロの国に行け……」
「いや……」
ラクトが、護衛達に目線を向けながら、マナトに言った。
「あれは、全員、見送りだよ」
「見送り……」
「ああ」
よく見ると、ロアスパインリザードとの戦いで、最も傷を負った護衛も来ている。松葉杖をついて、他の護衛達に肩を持たれていた。
「おぉ、前に水をくれた、キャラバンの兄ちゃんじゃないか」
「あっ、確かに」
「昨日、果物も持ってきてくれたよな」
護衛達はマナトに気づくと、口々に言った。