バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

思い込み

それは、たまたま見かけたものであり、最初は三角関係の痴情のもつれの果ての路上での殺傷事件だと思った。
「花言葉、信じてたのに!」
ナイフを手にしていた女が、そう叫びながら、男女の男の方を襲っていた。
「やめろ、この!」
男は当然抵抗し、そばにいた彼女さんらしき女性も彼を庇っていた。
「ちょっと、あんた、なに、やめなさいよ」
「こ、この裏切り者、花言葉を信じて、今日まで待ってたのにぃぃぃっ!」
凶器を手にした女が、とにかく、男に致命傷を与えようと暴れていた。
人間というものは、突然目の前で非日常的なことが起こると唖然として対応できないものだ。近くのサラリーマンがその凶器を振り回す女を取り押さえようと動いたのを見て、ようやく俺も反応して、サラリーマンに加勢した。武器を持って暴れているとは言え、その女は男の俺たちと比べるとひ弱であり、実際、襲われていた男性の切り傷も致命傷になるほど深く傷つけられておらず、救急車で運ばれたが、多少縫うだけで、即日退院したそうだ。
一応、犯人を取り押さえるのに協力したということで、感謝状を一枚いただいた。が、そんなものよりも、後から知った事件の詳細の方が、俺の心に深く残った。
何でも男のバイト先にいた加害者が、バイトをやめるときの送別会でバイト仲間のカンパで買った花束の受け渡し役をやった被害男性に密かに好意を寄せていて、そのとき受け取った花束の花言葉を深読みして、自分のことを被害男性が密かに惚れていて、いつか自分のところに来てくれると思い待っていたが、彼にはすでに別に彼女がいたので、裏切られたと思い込んだ女が凶行に走ったという。
で、俺は、今まで自分の彼女に誕生日にどんな花を送ったかを思い出し、その事件の詳細を知った直後に彼女に慌ててプロポーズした。

しおり