焦がしニンニク醤油ラーメン
彼は私に会うとき、その前日に必ず、ニンニクたっぷりの料理を食べてくる。
普通、一日も経てば、臭いは消えるものだが、私の繊細な鼻はその微細な残り香を嗅ぎ分けた。
今日も、こいつ、焦がしニンニク醤油ラーメンを食べてきやがった。
ゆえに、私は本来の力が出せずに彼のペースにハメられ、手が出せない。ひどい時には、一晩私の部屋に泊まってやるだけやって、翌朝にはさっさと去って行くのである。
「私に会うとき、わざとニンニクを使った料理を食べて来るでしょ、あなたのそういう無神経なところが嫌い」と、はっきり言えたらいいのだが、自分からそういうことを言うということは、吸血鬼であることを自分から自白するようなものだ。
彼は私が吸血鬼と本気で気づいていなくて、ただ単純にニンニク料理が好きなだけのようにも見えるからやっかいなのだ。
いっそ、彼の血を狙うのをやめて、一切の関係を断ち切った方がいいような気もするのだが、それは自ら敗北を認めて撤退するようで、私の吸血鬼としての高潔なプライドが許さなかった。絶対、彼の血を吸いつくしてやると心に決めていた。そして、私はずるずると彼と肉体関係を続けていた。