バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

無菌室

目を覚ますと白い防護服を着た男たちに囲まれるように、その白い大きなテントの中に連れ込まれた。
「畜生、離せ」
抵抗しようとしたが、俺を脅すようにスタンガンを見せつける。大人しくしないと、またスタンガンで気絶させるということだろう。
仕方なく、抵抗をあきらめて、そのテントの奥に進む。透明なビニールに囲まれたそこは、簡易の無菌室のようだった。ベットとマスクをした医者らしき男がひとりいた。
「もう心配しなくていい、これから君にワクチンを打つ」
黄色い液体の入った注射器をマスクの医者が見せる。
「ワクチン?」
「そうだ。これで君は助かるんだ。落ち着いてベットに横になるといい」
「おい、発生からたった一週間程度で、もうワクチンがあるだと? もし、すでにワクチンがあるのなら、この病気が流行する前に、このウイルスのことを知っていて研究していたってことだろ。政府の開発した細菌兵器が漏れ出して、慌ててるのか。それとも、豚コレラみたいに蔓延を防ぐため、この俺を殺処分する気か」
俺の問いかけに医師がひるんだのを見て、以前から細菌兵器として研究していたか、または感染者の殺処分という推測のどちらかが当たったようだと悟る。
「このワクチンは本物だ、助かりたくないのか?」
とマスクの医者が俺を説得するように言う。
少し悩んだが、とりあえず、おとなしくベットに乗る。俺がおとなしくなったのを見て、俺を連れてきた防護服の連中が医者に任せて去って行く。俺は、その隙を逃さなかった。たぶん、映画スター並みの俊敏さで、医者が俺に打とうとしていた注射器を取り上げて、その注射器の針の先をマスクの医者の喉元に向ける。こういう細菌を題材にしたB級映画はたくさん見たが、自分がその当事者になるとは思っていなかった。
「騒いだら、刺すぞ」
映画から得た知識を動員して最適な脅し文句を吐く。
「た、助かりたくないのか?」
「これが本物のワクチンなら、そんなに怯えるなよ、刺されたって無害だろ。それとも安全ではないワクチンか? 研究中の細菌兵器で、まだワクチンは完成してなくて、未完成のワクチンを患者に注射して患者で人体実験しようとしてたか? ま、こんな怪しげなもの願い下げだ!」
俺はその注射器を、そのマスクの医者の太ももに刺し、中の液体を注射してやった。すると、ビクビク震え気絶した。
「死んでない。ということは未完成の危ないワクチンだったみたいだな」
未完成のワクチンを打たれたからちびって気絶したようだ。
とりあえず、毒ではないようだから。俺はトレイに残っていた注射を自分に刺した。未完成でも打たないより、マシだろう。さて、ここから、どうするか。俺は映画並みのサバイバルで逃げ出し、そのワクチンのおかげで、唯一の生存者として、感染区域を逃げ出して、世界に真実を伝えた。

しおり