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13 悪徳商人ギルド

「儂は、昔、宮仕えをしていてな」

 エッチな声を強要され、刺客に襲われかけたミチルは、こうなった経緯をついにジンから聞き出そうとしている。
 ベッドの上で、腕枕をされながら。

禁衛軍(きんえいぐん)にいた儂は、まあまあそこそこの地位で優雅に暮らしていた」

 おい、ちょっと待て。どうしてこうなった。
 淡々と過去を話し始めたけれど、腕枕で聞くような話じゃなくない?
 リラックスして聞けって言うから従ったけど、まるでピロートーク(事後の話)じゃない?

 向かい合って密着して、先生の右手がずっとオレのお尻に置かれてるんだけど。
 喋っているから吐息がずっと顔にかかる。イケメンの吐息は香水のように芳しい。
 やっぱり、お尻がムズムズします。

「先生、きんえいぐんって何ですか?」

 近距離イケメンの顔にドキドキでムズムズでソワソワのミチルは、どうにか気を逸らそうと話題に集中しようとした。

「うむ。禁衛軍は皇帝陛下の身辺を警護する組織だ。だが表立って動く訳ではなく、内外問わず陛下に向けられる、あらゆる敵意を排除するのが任務だ」

 と言うと、日本で言うなら公安。アメリカならFBI。イギリスだったらMI6!?
 ス、ス、スパイじゃね? やだ、カッコいい!!
 ていうか先生に似合い過ぎる。音もなく敵を倒す様なんか、天職って感じだ。

「つまり、先生はダブルオー要員(殺人許可証持ち)のスパイですか?」

「? 貴様の言うことは度々わからん」

 通じなかった。でも暗殺とかもやってそう。
 これまでの所業の怖さでミチルが勝手な妄想を抱いていると、ジンは顔をしかめて言った。

「黙って聞け。この仕事は危険と隣り合わせだが、実入りがいい。儂はそれで優雅に好き放題暮らしていた」

 この人の物差しで言う「優雅に好き放題」が気にはなったミチルだが、先に釘をさされたので黙って続きを聞いた。

「ある時、儂は鐘馗(しょうき)会と言う商人ギルドと揉めてな」

 ああ、やっと出てきた、しょうきかい。ミチルはますますジンの話に集中した。

「いわゆる賄賂というヤツを奴らは儂に持ってきたんだが、儂は面倒くさいから断った」

「ははあ、先生らしいですねえ」

 こういう、顔だけ「清貧」タイプはお金には興味がないだろう。ジンが興味がありそうなのは……ミチルはちょっと考えたくなかった。

「そんな奴らとつるんだら最後、悪徳代官の道まっしぐらだ。面倒だから家族もいない儂は、金には困っていない。一晩温まる人肌があれば充分で、その相手にも事欠かないからな」

 あー、そうですか。プレイボーイなんですねえ。いや、プレイオジサンなんですね。
 プレイオジサンって響き、変態すぎない?

 家族は面倒、と言い切るジンの生き方が少し悲しくて、ミチルは頭の中でそうやってふざけてやり過ごす。
 そんなミチルの心中を全く察しないジンは更に続けた。

「儂に無下にされた鐘馗会は別の手段に出た。まず儂の部下達を抱き込んで格安で遊ばせた」

「遊ぶというと、カラオケか何かですか?」

「なんだそれは。繁華街でツケで飲み放題、食べ放題、ヤリ放題だ」

 分かってるよ! でも話がイヤンな方向にいきそうだったからわざとボケたんじゃ!
 イケメンと密着している状態のミチルは、直接的な言葉を聞いて更にムズムズしていた。

「そうやって部下を有頂天にさせておいて、月末、利子をつけて代金を請求する。一介の兵の給料を遥かに超えた額をな」

「酷い話ですねえ。部下さん達はどうしたんです?」

「最初は持ち金で払えるだけ払って、残りは来月まで待ってくれる。が、残金には更に高額の利子がつく」

「げっ!」

 それってあれだ、雪だるま方式ってやつでしょ?
 エロスと金のイヤな話になってきた。ミチルは少し気分が悪くなる。

「そんな事を数ヶ月繰り返せば、多額の借金に塗れる事になる。儂がその現状を知った時には、もう遅かった」

「ああ……」

「部下が借金を返せなくなった頃、鐘馗会は彼らの耳元で囁いた。機密情報なら高く買ってやる、とな」

「うわー……」

 そこまで聞けばミチルにも顛末は想像がつく。
 ジン以外の兵は、鐘馗会の手足になってしまったのだ。

「事態はとうとう将軍の知る所にもなった。儂の部下の話であるし、儂にこれを収めよと命令がくだるのは当然だった」

「それで先生は鐘馗会とやり合ったんですね」

 ミチルが相槌を打つと、ジンは鼻でフンと笑って首を振った。

「やり合った? バカを言うな。あんな商人達など儂の敵にはならん。すぐに乗り込んで半壊滅させてやったわ」

「過激過ぎる! お金の問題なのに、腕力で解決したの!?」

「当たり前だ。儂が部下の負債を立て替えてやったりしたら、結局、奴らと距離が近づくことになる。そんなのは面倒くさい」

 潔癖すぎるのか、短絡すぎるのか。多分どちらでもない。
 面倒くさいことが、嫌だったのだろう。煩わしいものは反射的に潰してしまうのだ、この毒舌師範は。

「……それで、全部解決したんですか?」

「いや、鐘馗会は儂一人に的をあて、報復に出た」

「でしょうねえ」

 目には拳、歯にも拳では、恨みを買って当然だとミチルは思った。

「奴らは、儂にとんでもない計略を仕掛けてきたのだ」

 ミチルの尻を触り続けるジンの右手に、少し力が入った。

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