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のびたマフラー

俺の姿を見た瞬間、彼女は「ひっ」と顔を引きつらせて逃げ出した。無理もない、絞め殺したと思った相手が、追いかけてきたのだ、幽霊でも見たような顔をしていたから、相当ビビっているようだ。だが、殺人未遂犯を逃がす理由はない。俺は、俺を殺し損ねた彼女を追い掛けた。首に凶器となったのびてダラダラになったマフラーを巻いたまま。安物のマフラーの素材は柔らかく伸びやすい。だから、首を絞める凶器に使ってもマフラーがのびて俺は助かったのだ。
だが、彼女は俺が気絶したのを見て、それで殺したと思い込み、さっさと現場である俺の部屋から逃げ出した。彼女としては、一刻も早く犯行現場から遠ざからねばと急いでいたに違いない。そこに、意識を取り戻した俺が追いかけてきたのだ、亡霊と思い込み必死で逃げるのも当然だ。
そして、彼女は道路に飛び出した。行き交う自動車の運転手に亡霊に追われていると助けを求めたのかもしれないが、急に飛び出した彼女はトラックに人形のように跳ねられて死んだ。

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