図書館
図書館に着きました。
バウワウは入るときに止められたので、外でお留守番をしています。
私はまず旅行に関する本が置いてあるコーナーに向かいました。
ですが、そこには国内の旅行の本が多く、たまに海外旅行についての本があってもこの大陸にある国を目的地とするものばかりで、サン大陸へ行く人をターゲットにした本は置いてありませんでした。
私は上品に手で口元を隠しながら舌打ちをしました。
こうなれば人に訊くしかありません。
正直嫌です。
見知らぬ人との会話なんて、ここ数年経験のしていないことです。
教会の人は当然みんな顔見知りでしたし、教会に来られた方々に対する説教は一方的に私が話すだけで会話ではありませんでした。
人と話すってどうすれば良かったのでしたっけ?
私は受付の真面目そうな女性の方に話しかけてみることに決めたのですが、どうにも近寄る勇気が出ませんでした。
しばらく挙動不審にあわあわしながら受付の方をちらちら見ながらどうしようかと考えました。
そこで私に天才的な発想がッ!
ここは図書館です。
ならばきっとコミュニケーションスキルを上げるためのコツを教えてくれる本がきっとあるはずです。
その本を読み、今この場で成長するのです。
それしかありません。
私はさっそく本棚から本棚へ飛び移るように移動し、人と上手に会話するためのコツが記された本を見つけました。
私は睨みつけるようにその本を読みました。
1時間、みっちり頭に内容を叩き込みました。
読み終えたそれをパタンと閉じながら、私はニヤリと笑いました。
完璧です。
いざ出陣ッ!
ということで、受付の方の前までやってきたのは良いのですが、緊張しすぎて本の内容は頭から消失しました。
あの1時間はなんだったのでしょうか。
即落ち2コマですよ畜生め。
目の前まで来たのに黙っている私を見て、受付の方は怪訝そうに首を傾げました。
「どうかされましたか?」
「……あ、えっと。あの。あれです」
「どれでございましょうか」
「あ、あの。旅行のあれはあれですか?」
「?」
「あ、違います。間違えました。サン大陸に行く方法を知りたいのです」
「サン大陸でございますか。えーっと、サン大陸について記された本をお求めだということでしょうか?」
「あ、じゃあそれで」
よく考えたら旅行会社でもないのに、受付の人にサン大陸に行く方法なんて訊ねるのはおかしかったかもしれません。
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付の方は分厚い辞書のようなものを取り出しました。
おそらくそれには、どこにどんな本が置かれているかということが書いてあるのでしょう。
受付の方はしばらくページをペラペラとめくった後、辞書を閉じて私に言いました。
「ご案内しますね」
「あ、ご親切にどうもありがとうございます」
ということで案内してもらいました。
親切な方で助かりました。
案内された場所にあった本棚にはサン大陸に関する本がたくさんありましたが、サン大陸への旅行本はありませんでした。
まぁ仕方のないことではあります。
サン大陸はいわば未開の地。
そもそも一般人が旅行に行くような場所ではないのです。
クソが。
時間を無駄にしました。
ですが、せっかくなので『サン大陸、まるわかり!』というタイトルの本を読んでみることにしました。
軽く目を通しましたが、本当に基本的な情報しか載っていなかったので、あまり参考にはなりませんでした。
私はその本を本棚に戻して、一度大きくため息をついてから図書館を出ました。