死者より生者の方が怖い
祟りという言葉がある。だが、実際に不幸な死を迎えて誰かを呪いながら死んだとしても、その恨みの言葉は生者には届かないものだ。「恨めしや」と言いたくても、生者に死者は見えないのが現実だ。
あの女恨めしいと思って祟って近づいても、幽霊には肉体がないので、なにも触れられない。噂のポルターガイストだって、実際には起こせなかった。肉体のない幽霊は無力で非力だった。
「あんた、大丈夫?」
「なにが?」
「だって、あの子が事故ったのって、あんたが田舎の両親が倒れたって嘘ついて焦らせて、運転ミスを起こしたからでしょ?」
「あんな冗談、真に受けて、慌てる方が悪い。警察だって何も言ってこないから、私は何も悪くないわよ」
「あんたって昔から性格悪いと思ってたけど、本当に最低ね」
「なに? 罪になると思うなら警察に話したら、私が冗談を言ったら、あの子が真に受けて事故を起こしたって。どんな罪になるか知らないけど、何か証拠は? あの子との会話の録音でもあるの?」
「あんた、あの子に祟られて死ぬかもよ」
「祟られて死ぬ? そんな非科学的なこと、あんた信じてるの?」
「あんた本気で性格悪すぎ、私があんたのこと本当は嫌ってることも知らないんでしょ?」
「あ? なによ?」
「いいわ、死んだあの子の代わりに私があんたを殺しておいてあげるわ」
「ちょ、や、やめなさいよ・・・」
「楽に殺さない。たっぷり、苦しませてから死なせてあげる」
酷い嘘を真に受けて事故で死んだ彼女は怨霊としてそばにいてその殺人を目撃していたが、肉体のない幽霊には手助けも何もできず、ただその性格の悪い女が殺されるのを黙って見ているだけだった。