1.能ある鷹は何もかも隠しちゃう。
2028年、関東大地震発生。東京は首都機能の七割を失った。
その余波で日本各地で地震が発生、さらに台風、火山噴火、豪雨と立て続けに天災が降り注いだ。
さらにテロ行為、隣国からのミサイル着弾、宣戦布告、などなど。
毎年毎年くる日もくる日も問題だらけ。
日本政府は内外の統治に手が回らず、日本の治安は悪化の一途をたどった。
2079年。
悪化に悪化を重ねた日本各所は、ゴッサムシティさながらの犯罪都市へと変貌した。
その中でも苛烈を極める、東京。
皆さん初めまして!吉原ヒナといいます!今年で二十歳を迎えました!おめでたい!
富山の山奥で生まれ、貧乏生活をしていましたが、働きながら勉強を頑張って、この度東京で就職することができました!
東京は悪い噂しかありませんでしたが、これで実家に仕送りして、お父ちゃんお母ちゃん、おじいちゃんおばあちゃんにも楽させることができる…!
そう、思って、おりました、が。
「吉原ぁ、お前さぁ、いつになったらぁ、契約ぅ、取ってくるぅわけぇ?」
プゥーン
タバコの煙と香水の匂いと加齢臭と歯石の匂いが一緒くたになって鼻腔を襲う。
「えぇっと、でも私、会社に入ったばっかで、何も分かんなくて、」
「るっっっせえええぇぇぇ!!!!!!すぅおんなぃいいわけ、どぅっあれでっもっ、できんだよおおおぉぉぉぁぁぁあああ!!!!!!」
部長のありがたいお言葉と唾しぶきをいただく。
「どーすんの?!お前の成績悪いからって、怒られんの俺なの!!ねえ、どうすんの??言ってみ、ほら??」
「え、えっとぉ、頑張って色んな会社回って、話して、契約を、取ります…?」
「んんんだあああっっったらぁ、んんんすうぅあっ!さっ!とっ、いいっけええええええ!!!!!!」
「ひいいいぃぃぃ!」
部長に蹴り出されて会社を出る。
「何も、分かんないのにぃ!どこに行けばいいのかも、分かんないのにぃぃぃ!」
二日前に入社した、夜露死苦建設会社。関東のインフラ全般を請け負ってるということだが、東京のインフラは魔境も魔境。反社談合何でもござれのブラックofブラック。お偉いさんの利権が絡みに絡み合って、血生臭い事件もしょっちゅう起こる。
そんな中に二十歳の乙女が手ぶらで行ったところで、何もできるはずもなく。
「なぁ姉ちゃんんん!!!俺と風俗やろや?!なぁ!姉ちゃんならいけるから!月五十万はいけるからぁ!!!大丈夫大丈夫大臣!!!俺がっ、ちゃあんと、エスコートぉ、したるからああああああ!!!」
「嫌ですうううぅぅぅ!せめて身体売るなら、月百万ぐらいもらわないと、割に合いませええええええんんん!!!」
はぁ、はぁ
「ようやく撒いたぁ、五社くらい、建設会社っぽいところに入ってみたけど、ぜんっぜん、ダメぇ。話どころか、入り口に足かけただけで追い帰されちゃうぅ…それどころか、変な人に追っかけられるしぃ、東京、怖いよおおおぉぉぉ!」
べそをかきながら町を走り回る。
ホーホーホー
どこかでふくろうが鳴いている。
「もう夜の十時だよぉ。結局何の契約も無いし、変な人に五回くらい追っかけ回されただけぇ…嫌だぁぁぁ、部長に怒られるぅぅぅ、今日も帰れないよおおお!」
重たい足を引きずりながら帰社。
「えええ!!!それうちでやるゆうたやないですか!!!そんな後出し無しでっしゃろ、なあ!!!ふざけんのも、大概に、っすぅええええええよお、ごっるるるるるるるるるるるぐああああああああああ!!!」
「やりぃましょうやぁ、ねえ!いい女、ぎょーさん連れていきますんで!!!え?何?十人?いけますがなぁ!!!そんなん!!!十でも二十でもいきましょうやあ!!!そっちもこっちもあっちも、ばりばり現役やないですのおおおぉぉぉ???!!!」
先輩たちが営業電話を頑張っている。この時間になると、皆んな仕事が溜まってイライラしだす。
そんな中、そろりそろりと、誰にも見つからないように、そっとタイムカードを押そうとする。
「吉原?」
びっっっくうううぅぅぅ!!!
心臓が飛び出るかと思った。
錆びついた首をゆっくり後ろに向ける。
「ぶっ、部長ぉ……??何で、しょう…?」
にこにこにこ
なぜか部長は満面の笑み。槍でも降るかというほど珍しい。
「今日、どうだった?契約?」
「ひっ…あの、その、これ、です…」
グーパンを掲げる。
「ん?何?この手は?俺を殴るってこと?」
「違いますうううぅぅぅ!!!ゼロですぅ、ゼロォォォ!!!怒るなら怒ってくださあああい!!!笑顔の方が気持ち悪いでえええす!!!」
にこにこにこ
ぽん、と部長が肩に手を置いてくる。
「なるほど、そういうときもある、気にしなくていい。」
「え?なんでそんな優しいんですか?毒でも盛られて脳がやられたんですか?」
「お前口悪いな案外。いやいや、俺はいつもこんな感じだよ?」
助かった。理由は分からないが、今日はこれで帰れそうだ。
「なるほど、ありがとうございました!じゃあ今日はこれで、失礼しまあああす!」
がっし
肩を握る手が強く強くなる。動けない。
「え?な、なんです?え、痛いです?え、離してください、帰れないですが???」
「今日帰る前に、最後に一つ、仕事を頼まれてくれるか?くれるな?」
部長の顔から笑顔が消えている。
「嫌です。え、ええ?な、なんですかあ、仕事って???」
「気持ちが隠せてないぞ。いいから、こっちこっち。」
肩を掴まれたまま、奥の部屋に連れていかれる。
部長がドアを開ける。
ガチャ
むっっっっっっわああああああ
ふしゅーっ
ふしゅーっ
ふご?
…
…
…?
???!!!
部屋の中には、ハゲでゴーグルをかけて猿ぐつわをしていて全身ムダ毛だらけでとくにチク毛がひどくてブリーフ一丁で右手に鞭をくくりつけていて左手にローションをくくりつけていて足に水泳のフィンをはめた、推定五十歳くらいの大柄メタボ体型のおっっっさん、があああ???!!!
あと部屋の中心にアハーン♡グッズが大量にある。三十センチくらいの突起物もある。何に使うんだろう。
「ひっ、ぐぅぃいいいいいいやや、やあああああああああああああああ!!!ああああああ???!!!なななななな、なんなんですくわあああああぁぁぁ、こ、こんの豚はあああぁぁぁ???!!!いや豚さんに失礼か。このゴミはあああぁぁぁ???!!!」
「こら、言い直すんじゃない!こちらは爆滅不動産の社長さん!いいことしてくれれば仕事をくれるらしい!」
「いいこと?」
「いいこと。」
「エッチ?」
「セックス。」
「誰が?」
「お前が。」
「誰と?」
「これと。」
これに目線をやる。
にっこり
「んもおおおおおおうう、ずえええぇぇぇっっったあああぁぁぁいぃぃに、むうううぅぅぅりいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!絶対、ZETTAI☆に、無理いいい!!!無理ですうううぅぅぅ!!!こーいうのはぁ、そういうお店の人、呼んでくださいよおおおおおぉぉぉぉ!!!」
「無理じゃない!役立たずのお前が活きる場所はここしかなあい!!!あと近隣の店は俺らが荒らしに荒らしまくったせいでえ、隅から隅まで出禁になっちゃんたんだよおおおぉぉぉ!!!さぁその名に恥じぬように、イケ、我が社の礎となるのだあああぁぁぁ!!!」
「矢田屋だヤダヤダヤダヤダヤダアアアアアアァァァァァァ!!!私、初めてはあ、梶裕貴ぐらいイケメンで、宮野真守ぐらい稼いでて、津田健次郎くらい声が渋くて、中村悠一くらいユーモアがある男の人って、決めてるんですうううぅぅぅ!!!」
「無理だ無理だそんなのぉ!!!てか何で全部声優なんだよぉ!!!声はツダケンが一番好きなのねぇぇぇ、俺もおおおおぉぉぉ!!!でも全部間を取って、杉田智和くらいにしとけえぇぇぇ!!!それにほら、これもすっっっごい薄目で見れば、意外と可愛い杉田くらいに見えてこないかぁ?!あ、いや、無理だな。とにっかく、いっっっけえええええええええ!!!!!!」
部長が肩をぐいぐい押す。鞭のふさふさが腹に当たる。
パカッ
ドロォ
ローションの蓋が外れ、足に冷たい感触がピットイン。
「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!杉田は面白くて声も良くてお金持ってそうだけどぉ、そういう目では見れないからああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「何ゆうとんじゃああああああおまえええええええぇぇぇぇ!!!それにお前、初めてってことは、処女だなあ?!社長ぉ!!!どうぞぉ!!!!初モノですうううううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
ふしゅふしゅ、ふごおおおおおおおおお!!!!!
興奮したゴミが襲い掛かってくる!
「いやあああああああああああ!!!!!誰かあああっ、たすっ、けてえええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ムダムダムダムダアアアアアア!!!大人しく、喰われろおおおおああああああ!!!!!」
バツン
~~~ッ、ん?
んん??
真っ暗に、なった。何も見えない。
「おいなんだ、どういうことだあ!!!ブレーカーが、落ちたのかあぁぁあ???!!!んぬぅああああなにやってんだああああああおんめえええぇぇぇるぅわあああぁぁぁ!!!!!!」
「ふごおおお!!!ふごっ、ふごふごっ、ふごおおおおおおおお!!!」
部長とゴミが隣の部屋に向かって吠える。
「おおおおおおいいいぃぃぃ!!!!返事しやがれええええぇぇぇぇ!!!!」
「rrrrrrrrrrrっっっっっっすうううえええええええぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁああああああ!!!!こっ、ちっ、とっ、るあああ、作業中のでえーたあああ、ぜええええぇぇぇぇんぶ、ぜえええぇぇぇぇんぶうぅ、きえっちゃっっったんどわあああああああああっはっはあああああああああ!!!!あああっっっりええええええねええええよおおおおおおおあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「消えただとおおおあああああ???!!!しっらねええええよおおおおお!!!!!ぜーんぶ、やりなおすまでえぇ、かえんじゃあねえええぞおおおおおおるうああああああぁぁぁ!!!!」
「ふごごごぉっ、ふごごごごぉぉぉっ、ふっっっごおおおおお!!!」
「んじゃっかましゃああああああおまええええええぇぇぇぇ!!!!人間様の言葉あぁ、しゃべってんじゃあ、ねえええぇぇぇぇ!!!」
バッキャアアア
恐らく部長の胴回し回転蹴りがゴミに炸裂した。
ふごおおおおおお!!!
ドンガラガッシャーン
「ひいいいぃぃぃ、なんなの、もうぅ。早く電気、ついてぇ。」
ジッ、ジジジ
パッ
「お?」
「ついた?」
ふご?
「俺ちゃんがつけたぞー。」
「そうか、ありがとうありがとう!いやあ助かった。」
「助かりましたね。」
ふごぉ
あっはっはっはっはっはっはっは
…
……
………?
「お前だれえええぇぇぇ???!!!」
「えぇ???!!!」
ふごぉ???!!!
「何だよ、俺ちゃんを知らねえのかよ。傷付いちゃうぜえ。」
白髪に、ぎろっとした目、紅い瞳。
真っ赤な革ジャン、背には『天下布武』。
両手にごついグローブをはめ、肩で金属バットを担ぐ。
サンダルに、黒く染まった爪。
にいっ
紫のリップからのぞく白い歯。えくぼが映える。
「なな、なんなんだお前はあああぁぁぁ!!!部外者が勝手に、会社の敷居をまたぐんじゃあ、ねええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「別にいいじゃねえかあ。細かいこといってると、ギョーカイで生き残れないぜえ?」
部長の圧にも動じない。やけにへらへらしているその男は、十代?二十代?それくらい若く見える。身長はヒナと変わらない、ちょっと高いかな?くらい。体格は良さそうだが、線が細い。
ぽかーん
ヒナ、あまりの事態に置いてけぼり。
「ええっと、部長の
ふご?
「ああああんなのが、俺のわけあるかあああああぁぁぁぁ???!!!この渋い顔を見やがれええええぇぇぇいぃ、四古井多磨数たぁ、俺のことだああああぁぁぁぁぁ!!!」
「おー悪い悪い、おっさんの顔は描き分けがムズイのか、どーも同じに見えちまうんだよなあ。」
「それで、俺に何か用があるのか?!あるならさっさと言え!!!取り込み中だ!!!」
ふごお!
「いや、大したことじゃねえんだけどさあ、」
スッ
ミシッ、ミシミシミシミシ
バットの持ち手が軋む音が聞こえる、すごい握力。一本足打法の、構え。
「んなっ、なっ、なにを、」
シュラッ
バッッッキイイイイイイイイイイイイン
目にも止まらぬスイング。
何?何が起こったの?
ぺたん
突然座り込んだ、部長。
「部長?ぶちょ…」
声が出なかった。目を見開く。
部長の、両膝から、下が、無い。比喩じゃない。本当に、無い。持ち去られたみたいに、綺麗に無い。
プシュゥゥゥ
赤のスプラッシュ。ピンクの肉にのぞく白骨。
彼がやったのか?いや、彼しかいない。
「ん、んん…」
ふごお…
「んん、んんんああああああああ!!!!!!!んぬうああああにいいいいぃぃぃをぉ、んんなあああああにを、して、いるっ、いるあああああああああああああああ!!!!!!!キシャッ、キッサムアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!俺っ、俺のを、脚ぃ、脚があああああああああぁぁぁぁ!!!!」
「おーおー、よう鳴くわ、どうどう。」
ぜいっ、ぜいっ
部長は額に脂汗を滲ませ、ガタガタ震えている。
「部長、つらそう…」
「なんっで、なにがっ、俺おおっ、おぉ?」
「んー、五百万!」
「は?」
「五百万、円?」
ふごご?
「お前の命についた値段だよっと、ほら。」
スマホの画面をつきつける。
『驚天動地☆滅殺撃滅闇サイト』
『夜露死苦建設会社 部長 四古井多磨数』
『¥5,000,000』
「ほんとだあ、部長、五百万円ですよ!すごいですねえ!」
「なっ、なっ、だ、誰が、何だ、これ…」
「誰かはわかんねえな、基本匿名で依頼を出して、そっからオークションで値段が吊り上がっていくからよ。にしてもサラリーマンにしてはいい値段してたから、ちょいと調べたんだけど、結構悪だねえ、あんた。強盗、恐喝、強姦、放火、詐欺、横領、暴行、死体遺棄もか、殺人以外ほぼフルコースだな。」
「えええぇぇぇ!!!そっんな、悪だったんですかあぁ、部長お!見損ないましたあ!プンプン!」
「ちがう…会社のためだ…会社のため…全部…」
「まっ、因果応砲ってやつだな。あれ、字違ったか?まあほとんど意味一緒だろ。」
「『報』だ、馬鹿者が…頼む、助けてくれ…私には妻が…娘が…家族がいるんだ…」
「こんなときでも家族は心配なんですねえ。いいパパってやつですねえ。」
「パパねえ、でもさーあ?あんたの奥さんとお、娘さんかあ、一応、調べたよ、調べたけどさあ、あんたが仕事で忙しくして、家にいない間に、」
またスマホ画面を見せる。
『あっ♡ああっ、そこっ、そこぉ♡ああんっ、もっと、激しくしてえぇぇん♡あっ、あっ♡』
『うん、ううん、しゅ、しゅごいいいいいぃぃぃぃ♡しゅごおおおいのおおおおおおおぉぉぉぉぉ♡おっ、おおっ、ぐるうっ、ぎちゃうううううぅぅぅぅぅぅ♡』
「がーーーっつり、男に騙されてたよお、二人ともなあ?」
「おお、これはこれは、すごいですねえ、二人とも、五人くらいいっぺんに相手してますよお!!!」
「…………………………………は?」
部長の顔からまさしく生気が消える。
「奥さんは詐欺師に、娘さんは半グレに捕まっちゃったみたいで、すっかり搾り取られたみたいよ?預金口座、どれもすっからかんだったからよお。それに娘さんは、あちゃー、こりゃだめだな、ヤクきまっちゃってら。可哀そうに、二度と人間に戻れないねえ。まだ高校生?なのにねえ。」
「は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?」
ぐっ、ずいっ
俯く部長の顎をバットの先で押し上げ、目線を上に上げる。
「仕事ばっかりで家のことなーんにも見なかったせいだねえ、奥さんが抜かれたのも、娘さんが堕ちたのも、そんで今から自分が死ぬのも…」
にっっっいぃぃぃ
「ぜーーーーーーーーーんっぶ、あんったの、せ、い、よ♡アンダスタン?」
「うお、お……………………………………………………………………………………………………………………………………………ぉぉぉぉぉぉぉおお、おおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ふぐっ、ふぎっ、ふっ、っぉぉぉオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ????????!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「さあ与太話はここまでえ!俺ちゃんの名の下に、一つの汚く醜い人生に幕を下ろすっ、ぜええええええええああああああああ!!!」
スッ
ミシッ、ミシミシミシミシ
さっきと同じ、一本足打法の構え。
「きっっっさまあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!だあれ、誰っだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?????!!!!!」
「今気になるのねん?オーケイ、教えてやらあ。」
「サカツキ、サカちゃんでいいぜい。これから、よろしくな♡」
CHU♡
シュラッ
パッッッカアアアアアアアアアン
バチャバチャ、バチャチャッ
部長の頭が、無くなった。
それはそれは綺麗な破裂で、あのブサ面がこうも美しく散るものか、とヒナは思った。
「ふーう、終わった終わった。ちょっと興が乗りすぎちまった…おーい、ソートオー、聞こえるかー?聞こえるよなー?終わったぞー?」
スマホで誰かと電話しているようだ。
「聞こえてるよ。他に取られなくて良かったね。証明写真撮ってよ、早く。」
「わーってるって、そんなに急かすな。事後の余韻に浸ってるんだからよ。」
「知らないよ、早く。」
パシャパシャ
部長だったものの写真を撮る。
「ああー!まーた頭潰しちゃって、身元証明が大変だって、いつも言ってるじゃんかあ!」
「身分証明書がありゃ、いいだろいっとお…あったあった、これよお。」
部長だったもののポケットから財布を獲った。中のカードをいくつか抜き取り、写真を撮る。
「はぁ、まぁ、なんとかなるからいいけどさぁ。僕の取り分五割、二百五十万ね。」
「はああああああん?!四割っつっっったろうがあ!!!」
「この手間賃だよ。それに僕の情報あっての稼ぎでしょ。嫌ならもうやってあげないよ。」
「くっそがよお、足元見やがってえええええ!!!そんの代わり、次も何か寄越せよ!」
「はいはぁい。」
「あ、あの…」
ヒナが口を開く。
「あん?」
「そんなに、稼げるんですか?」
「はあ?」
「いや、私、お金を稼いで実家に送らなきゃいけなくって、それで、そのサイト?を使えば、いっぱいお金、もらえるみたいだから…」
「何?誰かいるの?」
「ああ、でも、人間じゃねえ、キチガイがいらあ、ここに。」
「そう、どんなの?」
「俺ちゃんの仕事を見て感動したんだろうが、『私もその仕事させてほし~いん、おねがあ~い』ってやつ。」
「んなっ!私、そんな言い方してないもん!」
「女の人?いいじゃん、コンビ組めば。面白いかもよ。」
「ったく、しょうがねえなあ。」
ぐいっ
?!
腕を引っ張られる。力が強過ぎて千切れそう。
「痛い痛いいいいぃぃぃ?!何何、何ぃぃぃ?!」
「ちょっと待てって、ひーふーみーよ、ほれ。」
ばっ
腕を放された。指の跡がくっきりついてあざになっている。
「痛い、もう!え、何?」
腕にマジックで、
『汚仕事はサカツキ迄☆電話→〇〇〇ー✕✕✕✕ー△△△△♪』
「サインしてやったぜい、これで我慢しろなあ。」
「ちょっとちょっとおぉぉぉ!!!これ、油性じゃあああん!!!わあわあ、消えないよぉぉぉ!!!!!」
「そこなんだ、面白いねこの人。」
「どこがだよ。うるせーだけのパンピーじゃあねえか。もっとこう、大人の落ち着きというか、魅力をだな…」
バッキャアアアアアン
「さっきからさっきからぁぁぁ、っっっっっるるるるるっっっすうぅええええええええええええんどぅうああああああよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ドアが蹴破られた。先輩社員たちが顔をのぞかせる。
「あ、せんぱぁい!!!油性マジック落とせるクリームか何か、持ってませんかあぁ?!」
「んぬぅぅぅぁぁぁあああにぃ、ぃぃぃいってやがるうううぅぅぅあああああああああ!!!ぶち、ぶっちょうはああああああああああ???!!!どっくぅぅぅおおおお、どぅぅぅぁぁぁあああああああああ!!!」
「ひいぃぃぃ!!!この時間帯、先輩の巻き舌すご過ぎて聞き取れないですよおおおぉぉぉ!!!部長なら、部長なら、そこでお亡くなりになりましたあああぁぁぁ!!!」
ビッと指を差す。その先には、部長の胴体だけがある。
「あああーあああ、あああ?!ぬぅあに、いって、やがあ、る…」
先輩たちが一斉に固まる。
「あ…?」
「マジか…?」
「マジっぽくねえか?アレ…」
「ああ…」
皆んな顔を伏せる。
くくっ
くくくっ
「ギィィィーーーーーーーーィイイイッッッアアアッッッッッファァァッッッッファァァァァァッッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!あああ、あいつぁ、とうとう、とおうとおう、おっっっちんじまいやがっっっとぅぅぅああああああああああ!!!!!」
「イイイヤッッッハアアアアア!!!!!ずぅあまあ、みぃぃぃーーーーーやがっ、るうううれええええええええええええぇぇぇいいいやあああああああああ!!!!!」
「ッフオオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!上の席ぃ、ひとっつぅ、空いたでぇいああああああああああああああああ!!!!」
狂喜乱舞。部長には色々鬱憤が溜まっていたようだ。
はぁ、はぁ
「あああーーーああ、ひっさしぶりぃに、涙あでぃるほど、笑っちまったぜいぃ。それでえ?吉原ぁ?何で死んだあぁ?」
「え、あの、その…こちらの、方ですぅ。」
「あん?俺ちゃん?」
「んんんぬぅぅぅぁぁぁあああああにいいい、しっっってやっっっぐぅわああああぁぁぁんどうううわあああああああああぁぁぁ!!!!!んてっっっっっっぅんむぅうううむぇえええええええあああああああ!!!!!」
「おーおー、元気のいいこといいこと。そーだよ、俺ちゃんがやったよおー。」
手をひらひらさせる。
「なんでなんで???!!!先輩、部長嫌いだったんでしょお?!なんで怒ってるんですかあ?!」
「野郎の、仕事があ、俺らに降ってくんのお???お分かりいいいぃぃぃ???あんなでもお、いっっっちおう、やくには、たってたのお!!!なあ、なああああああああああああああああああああ???!!!」
「そっか、部長の分のお仕事ぉ、やらなきゃいけないですもんねぇ、大変ですねぇ!」
「うんうん、つらいだろうけど、過労死しない程度に頑張るんだぞお?」
「っっっんんんの前にいいいぃぃぃ、おぉぉぉんまぁえぇぇぇを、ぶっっっっっっ殺してぇぇぇ、やるぅぅぅアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
先輩が懐から取り出したのは、拳銃。銃口は真っ直ぐ彼に向けられている。
「ええぇぇぇ、えええええ!!!!!!せんぱぁぁい、なぁんでぇ、そぉんなものぉぉぉおおお???!!!!」
「最近のサラリーマンは物騒だねぃ。そんなのを持たないと出勤できないなんて、時代を感じるぜえ。」
「かっっっあああああああああああああ!!!!!!」
パァッキイイイィィィン
放たれた銃弾。それに、バットの側面をあてる。
バットの丸みを押し当てて、少しずつ弾の向きを変え、真反対に。
そのまま、振り抜く。
ガッチャアン
「あ?!あああああああ???!!!いいいっっってえええええぇぇぇぇぇ???!!!」
弾は、銃を撃ったはずの先輩の手を貫いた。握力を失い、銃を床に落としてしまう。
「んなぁっ、なあんなあんだあ???!!!こいっ、つっっっあああぁぁぁぁぁぁ???!!!」
「はあー、喧嘩売るう相手はあ、選ばねえとなあ。俺は帰るからあ、じゃあなあ。」
スタスタスタ
何事も無かったように入口から出ていこうとする。
「ま、待っっったんかあああいいいぃ!!!ワッレエエエエエエェェェェェェ!!!!!!」
スタスタスタ
ピタッ
「ホンットォにぃ、まっつつつんんかいいいぃぃぃぃぃぇぇぇぇぇぇぇ???!!!」
踵を返し、振り返る。
「なぁ、ソートォ?」
「何ぃ?」
「今思っんだけどよお、部長があんなならよお、おんなじ会社のこいつらにも、値段、ついてんじゃあねえかあ?おらっ、ちょっくら見てくれなあ。」
スマホを先輩たちにかざす。
「人遣いも画質も荒いんだから全くぅ…あーあ、でも、ビンゴみたいよ?」
『夜露死苦建設会社 課長
『¥3,000,000』
『夜露死苦建設会社 係長
『¥1,500,000』
『夜露死苦建設会社 開発主任
『¥2,000,000』
などなどズラッと並ぶ。
「えええっへぇえええええ???!!!先輩たちみぃんなあ、悪だったんですかあぁぁぁ???!!!いやぁだあああああ、もおおおおお!!!!せっかく入った会社があ、ブラックだったなんてえええぇぇぇぇ!!!!」
「おいおいマジかよお、きょーうは天啓だなあ?!こんなら、一年毎日、焼肉とティラミス食ったってえ、でえじょおぶ、だよなあ?!いひっ、いっひゃひゃひゃひゃああああ!!!」
ダンッ、ダンダンダン
頭を掻きむしる。瞳孔が開く。涎が垂れ、地団駄を踏む。
「飽きるでしょ…いや、もー聞こえてないかぁ、ハイになっちゃってる。」
ダカダカダカダカダカダカダカ
足踏みでビートを刻む、最高潮。
「ぃいっっっくぜぇ、イクぜ逝くっぜぇぇぇええええええ!!!アッ、リィィィナァァァアアアアアアアア!!!!!ブゥゥゥォォォオオオオオオオオナァァァアアアアアアアアッ、スッ、テエエエエエエエエエエエエエエエジィィィィイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアア!!!!!!」
「なっ、んっ、だあっ、てんっ、めえええええええええええええ!!!!!!やんろぉおおおどもぉぉぉぁぁぁあああああああ!!!!ぶっっっっっくぅおっ、ろっっっせえええええええええあああああああああああ!!!!!!」
ジャキジャキジャキ、ジャキイン!
先輩たちはどこからか、拳銃、ショットガン、マシンガン、日本刀を振りかざす。
「ひぇぇぇえええええ!!!!おっっっかなあああああああいいいいいいいい!!!!」
ヒナは離れて身を屈めることしかできない。
「っっっやぁっっっるぅぅぅえぇぇぇぇぇええええええああああああああ!!!!!!」
「ヒイッ、ハアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ドッカアン!
彼が、跳ねた。
ダダダダダダダダダ
壁を天井を駆け回る。
バババババッババババババ!
ドッゴォォォン!
ギィンギィン!
弾丸が刃が、彼の影を撫でる。
「ふぅぅぅううううおおおおおああああああ!!!!!」
シュラッ
ピッシャアアアアア
「ぐげっ」
課長の顔片が宙を舞う。
「か、課長おおおおおおおおおおお???!!!」
「こんっちくぅっしぃようっぐわあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
怒号と撃音が虚しく響く。
「ところでよお、『人生山あり谷あり』なんて言うけどさあ、山と谷しかない人生って、キツ過ぎねえ?『人生は基本野原が続いて、たまに山と谷があります』、くらいじゃねえと、やってけなくねえ、ねえええかあああああああああああ???!!!」
「山あり谷ありって、別に山と谷しかないって意味じゃないでしょうに、全く。」
シュラッ
シュラアアアアッ
「ぎえっ」
「あふっ」
ポンポンと、先輩たちの命が消えていく。
「って、てんめええええええええ!!!!!くっっっそぉぉぉぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」
「おいおい、音圧が下がってるぜえ?まあいっか、飽きてきたし、さっさとお、きめきっちまうっかあああああ!!!」
シッ
ギシッ、ギシギシギシギシ
掬い上げるような、アッパー打法の構え。
「ううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「っどっっっかああああああああああああああああん!!!!!」
ジュバアッ
ガッボオオオオオオオオオン!
シュウウウウウウ
パラ、パラ
職場が、吹き飛んだ。怪獣にでも喰われたかのように、夜空に向けてぽっかり穴が空いている。
「私の、机…タイムカード、切れない…残業、つかない…」
「ふあーあ、サビ残しちまったぜい。つっかれったわい。」
「ねえ。」
「なんだよおソートオ、だから急かすんじゃねえって、」
「頭。」
「あん?頭って…」
先輩たちだったもの。身体中あちこちが吹き飛んでて、全く見る影も無い。
「あ。」
「ねえ、さあ…あんっだけ言ったよねえ?!あ、た、ま、!残せってえ!!馬鹿なの?言っても分かんないクズなのさあ?!」
「っるっっっせえ!!!ガタガタ抜かすなやあああ!!!身分証明見れゃ、いいだろがぁ…」
先輩たちが着ていた服や、身に付けていた貴重品は、すっかり衝撃でバラバラになり、どれが誰のものか分からなくなっていた。
「…」
額に冷や汗が滲む。
「どーすんの、ねえどーすんの?!分からないねえ何もかも!!!たーだ殺っちゃっただけだねえ!!!せっかくのチャンスを無駄にした、あーあ無駄にしたあ!!!しばらく生活が楽になったのにねえ?!馬鹿だから、損しちゃったねえ!!!」
「んだからうっっっっっっっせええええええええええええええ!!!!!!!!!いいいーーーーだろーーーがべっっっつにいいい、こいっつらなんてええええ!!!またいくらでもぶっっっとばっしてやるよおおおおおおお!!!」
「あの、」
「ばーかみたい、ばーかみたい!!!バット振るだけの単細胞、脳無しの穀潰しぃ!!!」
「よっしゃお前殺しにいったる、いったるから、どこにいるか言って、みやがれええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「あのー、」
「誰が言うもんかばあーーーか!!!お前みたいなのと会ったら馬鹿が移る、あーこわ、あーこわ!!!」
「ふんぬううううああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「あのおーーー!!!」
「あああん???!!!なんだアマああああ!!!」
先輩たちだったものに近づく。
「これ、課長ですぅ。腕に傷があるからあ。そっちが係長で、おなかに盲腸の手術痕がありますぅ、昨日見せてきたから覚えてますぅ。あっちが主任で、背中に金魚のもんもんがありますぅ、それで、あっちが…」
「………おい。」
「………うん。」
「いやあ助かったよお、吉原ヒナさん、っていうんだ。僕ソート、よろしくう。」
スマホのスピーカーから声がする。
「はい、よろしくです。」
「おい、こんな女連れてどうすんだよ、馬鹿が。」
「ヒナさんのおかげで儲かったんだから、感謝しなよ、ゴミが。」
「んだとおあ???!!!」
「あ、あの!」
「あん?」
一呼吸おいてから、告白する。
「私を、雇ってくださあああい!!!」
頭を下げる。
反応が無い。
恐る恐る顔を上げる。
こつ、ぜん
あ、あれ?いない?!
ピュー
走って逃げいていく後ろ姿があった。
「待ってくださああああああああい!!!会社あんなになっちゃったんですううううううう!!!雇ってくれないと、私ぃ、無職になっちゃうんですううううううううううう!!!!」
「知っるかあああああああああああああ!!!他に会社なんていくらでっも、あるだろうがあああああ!!!」
「雇ってくれるわけないじゃないですかああああああああああああ!!!!今日さあんざあん、追い返されたのにいいいいいぃぃぃぃぃい!!!!東京の人たちは不親切ですううううううぅぅぅぅ!!!!!!それにぃ、もっともっと、お金がいるんですううううううううう!!!」
「へえー、何でお金いるの?」
「おいいいいい!!!何聞いてんだあよ、てんめえ!!!」
「いいじゃん面白いし。」
「あのおおお!!!!実家がああああ!!!!!貧乏なんですううううう!!!!農家やってましたけどおおおお!!!!騙されちゃってえええ!!!土地、ほっとんどぉ、盗られちゃったんですううううう!!!!」
「ふーん、気の毒だね。」
「だっからああああああああ!!!!私の稼ぎでええええ!!!!取り返したいんですううううう!!!!」
「ばっかでい、土地なんてどうでもいいだろがあよ。どっかに引っ越せえ!!!」
「ダメなんですううううう!!!おじいちゃんの、おじいちゃんのお、そのまたおじいちゃんのころからあ、ずっとお、大切にしてきた、土地なんですうううううううううう!!!!!取り返さないと、いっけないん、でっすうううううううううう!!!!」
「よっぽど知らねえええよおおおおおおおおおおおおお!!!てか、なんで俺についてこれんのおおおおお???!!!ほっぼ全力、なんだけんどおおおおお???!!!」
「田舎でえええええ!!!学校まで遠かったからあああ!!!毎日二十キロは、歩いてたんですうううううううううう!!!それにぃ、帰ってから畑仕事手伝ってたからあああああ!!!足腰と体力には、自信、あるんですうううううううううううう!!!!」
「しっっっっっっっるぅぅぅかああああああああああああ!!!おんめええええなんていっらぬえええええええよおおおおおおお!!!!どっかっ、いっけええええええええええええええ!!!!」
「いきまっせええええええええええぇぇぇぇぇん!!!!どーーーーしってっもっ、お金、ほしいでえええええええすううううううぅぅぅ!!!!」
東の空が明るくなりつつあるころに、東京の町を男女が二人、フルマラソンで駆けて行く。
ぜい、ぜい
はあ、はあ
「お願い、しますぅ、はあ、仕事、くださいぃぃぃ。」
「てんめえ、しつっ、こい、ぞぁ、とっとと、うせやがれぃ。」
「もーいいんじゃなあい?雇ってあげようよー。掃除とか色々あるじゃんか。」
「ああ?んでも、必要ねえだろが、こんな女あ。」
「僕とサカの間に立ってくれるだけでもありがたいけどね、話通じないとき多いじゃんさ、お前。」
「んあああああんだとおおあああああ???!!!おめえの方が話通じねえからあ!!!引きこもりの根暗やろうがああ!!!」
「ヒナさん、ね、いいよね?サカのサポートしてやってよ、僕が助かるからさ。」
「おい無視してんじゃ、ねえええぞごるううううううああああああああ!!!!」
「は、はい!やります、やらせてくださあああい!!!」
「ちっ、おいよお、だから俺はよお、一人でよお、」
「サーカ?さっきの恩、忘れたの?一人いるだけで、大分稼ぎやすくなると思うよお???」
「サカさあん、お願いしまあああすううううう!!!」
「ああ近寄んな近寄んなうっとおおおおしいいい!!!!それにぃ、おめええええがサカって、よぶんじゃねえええだああああああ!!!!ぺっぺっ!!!」
「わっ!!!汚い!!!サイテー!!!」
そんなこんなで五分ほど、押し問答した。
「はあーあ…さっきの金もあるし、こいつしつっこいし、しっかたねえかあ。俺ちゃんの器のでかさ、魅せちゃうかあ。」
ガシガシ頭をかく。
「ぃぃぃやっっったああああああああああ!!!!ありがとお、ございますうううううぅぅぅぅ!!!!祝ぅ、無職回避いいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」
「うるっせえええええ!!!!いちいち騒がしいわあああああ!!!!」
「サカの声の方がうるさいよ。」
「黙れえ!!!シャトゥアァァァッッップ!!!」
「それでそれで、給料は???いくらです???!!!」
目を輝かせている。
「はん、こいつはとんだ甘ちゃんだぜえ。おめえみてえなアマにい、たっけえ金払うわきゃあ、ねえだろお?」
じいいいぃぃぃっ
紅い瞳がヒナを捉える。
ひゅっ
喉が絞まり、呼吸が止まったような感覚になる。脚が震える。彼の雰囲気に、吞まれてしまう。
「俺ちゃんが社会の厳しさをよおーくおしえたるわい、いいかあ?」
ごくり
「月給百万!!!完全週休二日!!!年間付与有給三十日!!!残業、早朝、深夜、休日手当アリ!!!労災保険アリ!!!賞与は夏冬二回、固定分プラス会社業績分プラス個人業績分!!!年二回の昇給査定!!!これだああああああああああああああ!!!!!!」
「超絶ホワイトオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!シャッチョサン、いっしょおついていぎまずううううううううううううううううう!!!!!」
「ええい、だから近寄んなあ!!!鬱陶しぃぃぃやあああぁぁぁぁぁ!!!!」
ギャーギャー
拝啓、皆さん。
私はこうして、サカ社長の下、思ったより良い条件で働くことになりました。
ボーナスや昇給もあるみたいなので、頑張れば実家にたくさん仕送りができます!
ちょっと危ない仕事みたいだし、ソートさん、とか、知らないことだらけだけど、一生懸命頑張ります!
明日から新しい社会人生活、頑張ります!では、お休みなさい!
…
ふご…
ガパッ
「ふう、やれやれ、やっと落ち着いたか。」
猿ぐつわとゴーグルを外し、朝日を拝む。その凛々しい顔は、まさに一会社の長としてふさわしい。
「一時はどうなることと思ったが、なんとかやり過ごすことができた。サカツキ、といったか、彼は何だったのかな?」
ゴトゴトン
鞭とローションを取り外す。
「夜露死苦建設も終わりだね。社長は存命だと思うけど、この調子じゃあ、表になんて出てこれないだろう。優秀な社員もごっそりいなくなったことだし。」
そこらの人間だったものから、スーツを拝借して着こむ。
「私のことなんて全く気にかけていなかったろう。それが私が社長になれた所以さ。目立つところは目立ち、隠れるべきに隠れる。そうすれば最大の利益を手にすることができる。実際は私はこうして、生き延びた。」
キュッ
ネクタイを締める。
「さて、私は仕事があるから失礼するよ。彼みたいなのに狙われないように、誠実に、ね。」
バチコンッ☆
ウィンク炸裂。
「では、さらばだ!はあーはっはっはっはっはあぁ!!!!!」
朝日に臨む町で、一人男が駆けて行く。誰もが彼を知っているようで、知っていない。
今日も彼はどこかで現れ、ひっそりと仕事をこなし、じっくりとパンツ一丁になるのだろう。
能ある鷹は爪を隠す、まさに彼のためにあるような言葉だった。