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吸血鬼活動家

彼は昼間、頭からすっぽりかぶる目出し帽をかぶり、眼球をサングラスで、口をマスクで隠し、活動する、自称吸血鬼の活動家だった。昼間は顔を隠すが、夜収録のテレビ討論番組では、その美麗な素顔をさらして、自説を主張していた。吸血鬼や狼男などのモンスターは実在し、彼らが凶暴で人間を無差別に襲うというのは、映画の悪影響だと、実際の彼らは、人間に正体がばれるのを恐れ、こっそり静かに暮らしている臆病な存在だと。むやみに人間を襲ったりしない。その証拠に、人間の数は減っていない。ただ人間と同じ権利の上に立ち穏やかに暮らしたいだけだと、映画のイメージを払拭し、人間と穏やかな共存を求めているだけなのだと、モンスターの人権を認めて欲しい、モンスターを退治するのが正義だという考えを改めて欲しいと、訴えた。だが、ある深夜の討論番組で、人間の輸血パックの血をテレビのスタジオ内で観覧者がぶちまけて、その血の臭いを嗅いで、興奮して牙を見せた彼の姿が全国に生中継された。彼は血の臭いに興奮したが、それは血の渇きに耐える苦痛と苦悶の表情であり、吸血鬼の本性を強引にさらそうとして、その血をぶちまけた人間の行為の方が、卑劣愚劣と非難され、世間は、次第に、闇に生きる吸血鬼に寛容になっていった。むしろ、太陽の光を恐れ、人間の血以外食せない彼らに同情の意見が広まったが、それでも、吸血鬼は邪悪と決めつけた連中が、昼間、彼を襲った。ニンニクの香りのスプレーを彼に吹きかけて、陽光の下、彼の目出し帽やサングラスやマスクを剥ぎ取り、太陽の光で、彼を焼き殺した。
人間の血を吸わないと生きられない吸血鬼と、吸血鬼をモンスターとして陽光で焼き殺す人間のどちらが野蛮であろうか。
人類史において、差別と戦おうとする者の末路は、大抵悲惨である。吸血鬼活動家の彼も、その運命からは逃れられなかったらしい。

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